満ち足りた気持ち 「〜〜〜」 すりすりと寄せられる頬に戸惑いばかり感じている。 私の好きなタイプはまずこんなことしないと、はふてくされたように頬を少し膨らませた。 しかし、そんなことに一向に気付きもせずに小平太は腕の中に抱きすくめたの頭にすりすりと音を立てるように擦りついている。 誰かこの二人をみる者があれば、まるで大型の犬が大好きなご主人さまに擦りついているように見えるだろう。 だが、意図的に二人きりになれるように取り計らった状況ならば、そんな人目を気にすることもないはずだ。 それでも、は、むすっと小平太に抱きすくめられたまま、言葉を発することもない。 小平太は小平太でそんなになれているのか、気にする様子もなくご機嫌で彼女の名前を呼んでいる。 じじっと、部屋に唯一燈されていた炎がようやく口火を切った。 「小平太やめて」 「ん〜?なんでだ?」 「やだから」 「私は嫌じゃないぞ!」 元気よく答えるせいで、ほんの少しだけ耳が痛い。 ぎゅうぎゅうと背後に迫る小平太の胸板には、反抗するようにぐっと背中を押しつけた。 「お?なんだ?、私のこと誘ってんのか?」 無邪気に笑う小平太の声が、苦しい。 「……だよ」 「ん?」 微かに零れた声を聞き逃し、にもう一度と催促する。 「…そう、だよ」 「え?」 の胴に回していた自分の手に小さく柔らかい手のひらが、重ねられた。 ごくりと、自然と喉が鳴るのを小平太は嫌でも感じた。 それとは別に、すんっとの鼻がなるのが聞こえた。 全く持って不本意なこの感情を、小平太に見せるのが悔しくて悔しくてしょうがないが、は自分の中にぽつりと落ちて、染みとなって拡がってしまった想いを口にした。 「小平太は、さ」 こうして甘い時間を二人で過ごす毎日は、一体なんだろう。 虚しさはそこから始まった。 「私こと、好きじゃないんでしょ?」 「は?」 やや、怒気すら感じられるその声に、負けじにとは開いていた瞳を細めた。 世界は狭まり、胴に巻き付けられた小平太の腕を曖昧にしていく。 「いいんだよ、別に」 タイプじゃないから。 私はきっと、小平太のタイプじゃない。 だって、おかしいんだよ。おかしいはずなんだよ。 「……どうしてそう思うんだ?」 「………」 今、口を開いたら簡単に嗚咽になってしまう気がした。 しかし、自分の口からは思ったよりもはっきりとした声が出た。 「だって、ね、小平太は私に……」 「……」 「な、に……もしないじゃん」 少し上擦ってしまったが、言えた。 胸の中は、染みの色がどんどん濃くなり染め上げられていく。 「好きなら、どうして?」 一瞬、小平太の手が緩んだ。 狭まった視界では、敏感にその僅かな加減すら感じ取ってしまい、ますます苦しさがの体の中に広まっていった。 「」 ぐうっと、柔らかく小平太の手に力が入る。 「私がのこと、嫌いなわけないじゃん」 小平太の声なのに、普段と違いまるで大人の様な声色で囁く。 「に手を出さない? 当たり前だろ?」 付き合う前、友達から言われた。 浮ついた噂ばかりの体育委員長には気をつけろ。 泣いた子はたくさんいる。だから、気をつけないとも痛い目見るよ、と。 警戒心と軽蔑で、拒絶していた私を見つけて面白がって彼は私を追いかけるようになった。 気付いたら、こうして抱きすくめられて二人気の時間を過ごすようになっていた。 それでも、小平太は手を出してこなかった。 「のことが大事で大事でしょうがないんだ」 心の底からの言葉だった。 まっすぐで、カッコよさも器用さも感じさせない、ありのままの声。 「のことを傷つけるなら、私はいらない。一緒にいられるだけでも満足してる」 何もかも、知っている。 は、つんっと鼻の奥が痛くなった。 「………でも、好き?」 「好きだ」 「私だって、小平太好き」 絶対に言わなかった。嫌われたくないから。 その一点だけで嫌われてしまうと思っていたから。 「こへ、いた……」 「なあ、チュウしていいか?」 「ん」 ひどく甘い唇は、いつになく柔らかく体が溶けていってしまいそうだった。 「ん、は……もっと…しよ?」 「いいぞ……口あけて」 もっともっともっと、と、角度を変えて唇を重ねているうちに、の心は動いていた。 「ふ、あ……ね、こへ」 蕩けそうなほど甘ったるいの声に、ぞくりと背筋に痺れが走るのを我慢できなかった。 ふにゃりと、赤く染まった頬を緩ませる。 「私、こへとなら、したいの」 犬歯がちらりと、小平太の唇から垣間見えた。 「無理するな。な?」 「うー、」 赤いほっぺたに小平太はちゅうっと音を立てて唇を落とすと、擽ったそうには目を閉じた。 じじっと、灯りが揺れた。 終 続き書きたいなーッ… |