知らず知らずのうちに「その日」が近づいてくるのを楽しみにしていた。
それもそのはずだ、年に一度のこの日は、まさに私たちにぴったりとしか言いようがない日なのだから。


「ふふふのふーん」


一体どんな格好をしようか、迷いに迷った挙句に当日になってしまうなんて、まるで雷蔵の様な事をしてしまうのも、しょうがないと笑顔に変わってしまった。
ああ、これなんか、可愛いかもしれない。
手にした黒い布はすべすべとした手触りで、ぞくぞくと心を浮き立たせていく。


「なあ、。そんなにニヤニヤしてると、にやけ顔になるぞ?」
「うるさい竹谷。あんたにそんなこと言われる筋合い……」
「えーあるだろ?俺とお前との仲じゃーん!」
「……」
「あー、でもその格好したら可愛いな」
「竹谷?」
「ん?」


ここは、私の部屋だ。
なぜ、その私の部屋の床にぽっかり穴があいて、そこから硬そうな毛が生えた三角耳の竹谷が顔を出しているんだろう。


「なにやってんのよ」
「え?……を迎えに来た!」


しばらく考えたあとに、嬉しそうに竹谷は微笑みながら言う。
いや、問題はソコじゃない。


「ここどこか、分かってんの?」
の部屋」


もしくは、くのたま領域ともいう。
くのたまの長屋に忍びこんだことがばれればそれはもう、ぎったんぎったんのめためたにされること間違いなし。
三日は足腰立たないことにされる。


「ば、馬鹿!だからなんでいつもくるのって言ってるでしょ!!!」
「は?仲良しさんが来て何が悪い!」
「お前が女だったらな!」


いまいち私が怒ってるのがピンとこないのか、竹谷は首をひねる一方だった。


「いやいや、むしろみんな来てるぞ?」
「え?」


すると、竹谷の顔がのぞいている所から、手がにゅっと四本伸びてきた。


「ぎゃ!!!!!!!」
−−−!どうしたの!?奴でも出た!?」


どっから私の叫び声を聞きつけたのか、ドタドタと大きな足音と、頼もしい友達の声が急速に近づいてくる。
まずい!と、頭が考えた瞬間に私はとっさの行動に出た。
がそこに座りこんだのと、部屋の戸がすぱーんと開いたのはほぼ同時だった。


「んむっ!!?」
どうしたの!?」
「え?」


すっとぼけた声をごく自然に上げて、手に持った布をしゅるりと滑らせた。
しっかり穴を隠すように、ぺったりと座る。


「あ、れ?なんか今叫んでなかった?」
「叫んでないよー?」
「うっそー、ゴキじゃないの?」


疑いたっぷりの目で、私のことを舐めまわすようにみる友達。
何でもありません何でもありませんと、心の中で唱えていると、ふーんと納得してくれたのか、腕を組んで彼女は頷いた。


「そうだね、そんだけぴちぴちの着たら、思わず声出ちゃうよね?」
「え?」
、友達として言っておく」
「はい?」


と、彼女が口を開こうとした瞬間だった。
竹谷が苦しいのか、もがもが動いた。
いや、それどころではなく、おそらく下で控えているであろう押しつぶしたはずの四本の腕が蠢いた。
下半身に予想もしない刺激を受けて思わず、ぞくりとしてしまい、声が出てしまった。


「あっ、ひっ…!!?」
「露出は大胆に!!!!!!!!」


ウィンクが下手な友達は、しっかり両目を閉じて叫んだ。
布の下に手を突っ込んで、お尻の下に一発げんこつをお見舞いしてから慌てて笑顔を作った。
至極楽しそうに、友達はニコニコしながら自分の一言に満足して、手を振った。


「それじゃあ、またあとでね!私も早く着替えないと!」


これまた、勢いよく戸を閉め、出ていった。
閉まると同時に慌てて飛びのく。


「おっまえらぁ!!!」


あくまでも、声は控え目に。
穴には、顔を赤くさせて、鼻のあたりを押さえている竹谷の顔がのぞいている。


「な、なんで俺が殴られてるんだよぉ!」


非難の声を上げている竹谷だが、唇の端が上がっているのが丸見えだ。
泣き声を上げている竹谷の頭を撫でる手が二本と、顎や頬を殴るような仕草をする手が二本。
全く持って、分かりやすい。


「だー!ちゃんと準備で来たら集合って昨日言ったじゃん!」
「だって、遅いんだもーん!」


私の下から三郎の声が響く。
怒ってどんっと床を踏むと、「やられた〜」とみんなの声が一斉に上がる。
一瞬の間の後、私までそろって笑ってしまった。
ため息交じりに、床下から出て行くように要請すると、最後に雷蔵が「ごめんね?」と真っ白な犬歯をのぞかせて笑っていた。
本当に、みんなの準備はばっちりのようだ。
気配が床下から消えたのを見計らってから、私も慌てて準備してあった衣装に袖を通した。








この先注意