歪む三角
「三郎〜!雷蔵〜!」
二人の間に割って入ってくる。
同じ顔なのに、私たちを間違えることもなく、屈託ない笑顔を向けてくる。
「ねえ、雷蔵〜、宿題見せて〜」
「ちゃん、だめだよ、ちゃんと自分でやらないと」
「え〜、けちー!雷蔵のばかぁん!」
に一瞬で顔を変えて、雷蔵に二人で詰め寄る。
「わ、さ、三郎まで!やめろよ!」
「雷蔵のばかぁん〜!」
「ばかぁん〜!」
ゲラゲラ笑って、三人で遊んで、勉強して、忍術して、それでよかった。
「ねえ、雷蔵、三郎」
何にも変わらない、日常の延長線が歪み始めるだなんて思いもしてなかった。
と私と雷蔵。
三人で私たちの部屋でごろごろしていた。
うだるような暑さのせいで部屋から出ることもままならず、だらしない恰好のまま三人で寝ころんでいた。
体温で畳が温まってしまうたびに、冷たさを求めて体を反転させる。
ごろりと、回転したときにうつぶせに寝転ぶと目があった。
私は、緩んだ袂から見えそうで見えないの胸もとばかりが気になっていた。
「ん?なに?」
雷蔵も、あおむけからうつぶせに転がると、三人で頭を寄せた。
はなかなか口を開こうとしない。
自分から言ってきてなんだよ。
それよりも、と雷蔵に目配せをすると、の緩んだ袂に気づいたようだった。
には気づかれないように私に「ばか」と言ってるわりには、雷蔵も気づいてしまうとそこから目を離せなくなってしまったようだ。
ああ、あれ触ったら柔らかいんだろうなぁ。
「あのね、二人にだから言うんだけどね」
秘密の共有。
悪友だからこそできる打ち明け話ってやつだろうか?
なんだろうな〜、のやつ土井先生にでもなんかすげぇ悪戯したのかな?
「なに?ちゃんなにかあった?」
心配そうにしても、目元がの乳に釘付けなのがばればれだぞ雷蔵。
そういう私も、が何も言わないのをいいことに、の柔らかくつぶれた胸を堪能していた。
こいつ、胸でかくなったかな?
私だったら、胸大きさなんて気にしないけど、は気にしてんのかなぁ。
「あのね、私ね」
一瞬、の体が震えた気がした。
だから、私も雷蔵も、の目を見てしまった。
その唇の動きを見てしまった。
あのまま、ずっとバカみたいにの胸触りたいとかって思ってればよかった。
耳だけならば、疑う余地だって残ってたはずなのに。
「私、今度、房術の、授業で、誰かと、寝るの」
一つ一つの言葉の意味がすぐさまに理解されてしまう。
が、誰かとヤル。
その言葉が、ひどく残酷だった。
私も、雷蔵も、に言ってはないが、が好きだ。
はどちらが好きかなんてわからないけど、ずっと三人だった。
入学してから今までずっと。
だから、こそ。
信じられない。
「う、そだよね?ちゃん」
雷蔵の震える声も、どこか遠くで響いている。
が誰かと寝るだなんて、私と雷蔵はどうなる?
私たちはどうなってしまう?
私たちは、、自分たちのことを棚に上げて、のことばかりを心の中で責めていた。
私たちはどうなると。
自分たちこそ、房術の授業で4年生の時には、もうその行為を済ませているくせに。
にだけ自分たちの都合を押しつけていた。
だって、4年生から先生に相談してずっと房術を避けていたことくらい知っていたのに。
だけど
私たちは
いや
私は
嫉妬していた
と寝る男に。
が勝手に女になることに。
私たちは、きっと将来もこうして二人で組んで仕事をしているに違いない。
言葉を交わさずとも、同じ行動をとった。
雷蔵は、すばやくを抑え込み、私は誰にも邪魔されないように戸を閉め、開かないように棒をはめ込む。
どちらも、無言のまま、静かな行動だった。
「らい、ぞ?さぶろう?」
の心もとない言葉。
あくまでも穏やかな声色で雷蔵がに訊ねる。
「ちゃん、相手は?」
「……あ、その」
「言えよ、先生からもう相手聞いたんだろ?」
「………久々知、くん」
でなければ、竹谷君だと、の口からこぼれた。
私たちじゃない。
それもそのはずだ、ここまで仲のいい相手を先生たちが選ぶはずもない。
だからといって、だからといって……
許せるはずもない。
見失ったパースは狂い続けるだけで、もう、どうしようもなかった。
うだるような暑さが、私たち3人の思考回路を狂わせた。
残酷な抗いようのない運命が、私たちを躍らせた。
「ねえ、私たちにをくれよ」
「誰かのものになんてならないでよ」
「私たちずっと、三人でいようよ」
「お願いだから」
「」
「ちゃん」
「雷蔵、三郎?」
「お願いだから」
同じ顔が二つに、違う顔が一つ。
男が二人に、女が一人。
狂いだしたのは、誰からだった?
右と左の頬に、それぞれ口付けを落としてさあ始めよう、。
狂いだした私たちは止まらない。
終
続きそうな予感がしなくもない。
双忍大好きだ。
続
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