プレゼントはもちろん ああ、いい匂い。 うっすらと意識が浮上するのに任せて、心地よい目覚めへと向かっていく。 顔が冷たい空気にさらされているから、寒いけれど、その分布団の中の温さが際立っている。 ふわふわする気持ちよさに、目を閉じたまま頬が緩むのが分かった。 それにしても、本当にいい匂い。 なんだろう。この薫り。 寝る前に部屋の中には、薫りを放つようなものがなかったはずだ。 まあ、なんだっていいか。 「ふぁーあ…う?」 半分眠気が去った瞼をこすりながら、くるりとうつぶせになってようやく目をあけた。 すると、視界に入ってきたのは一切予想していなかった光景。 一面の真っ白な薔薇。 まるで、私の部屋が雪景色になってしまったかのように白一色に埋め尽くされていた。 薔薇一輪一輪から、柔らかく香りが漂ってくる。 それが、いい匂いの原因。 私の布団が埋もれるくらいにみっしりと、敷き詰められた薔薇にただただ瞬きを繰り返すことしかできなかった。 「なに、これ」 呆然とする私が次に見つけたのは、白い雪原の中に一滴たらされた血潮の様な薔薇。 たった一輪、白の中に埋もれることもなく咲いていた。 半ば夢の中にいる様な気分になっているのだが、肌を刺す寒さが現実だと訴えている。 「なんで、一輪だけ?」 すぐ枕元にある真紅の薔薇へと手を伸ばした。 そっと、取り上げる。 「ぎゃ!!!!?」 顔が出てきた。 心臓が鷲掴みにされたように縮む。 ああ、寿命が絶対三年は縮んだ。 「たたたたたた………滝?」 一輪の薔薇の下に埋もれていた顔は、よくよく見知った同学年の滝夜叉丸の顔。 いつもキラキラさせている吊り目を閉じて、すやすやと寝息を立てていた。 「な、なんで……滝が?」 驚きが去った後の私に訪れたのは、戸惑いと困惑。 どう見たって、これはお化けとか狐とかの類じゃなくて、平滝夜叉丸だし。 寝てるし。 ここは、私の部屋だし。 しかも、薔薇に埋もれてるし。 「あ」 ここで、長年滝夜叉丸と一応過ごしてきたことにより培われた私の推理力が見事な推理をはじきだした。 これは、滝夜叉丸がいつも自分を美しく飾る演出のために贔屓にしている花屋から仕入れた物に違いない。 それを、寝ている間に私の部屋に敷き詰めたに違いない。 更に、美しいと普段からおっしゃっている自分をうずめてみたに違いない。 「やっぱり」 滝夜叉丸の胸のあたりだろうと思われる部分に乗っかっている、白い薔薇を少しどかしてみると、予想通りに素肌が現れた。 やっぱり、裸だったか。 そっと、見なかったことにして私は薔薇を元に戻す。 「滝ー、朝ですよー?私起きちゃったよー、起きて下さい―?」 どうせ、私をびっくりさせようとでも思っていたのだろう。 本当に、冗談が悪い。 まさか、一晩こうやってたの? 「あ、冷たい」 ふにっとつついた滝のほっぺたは冷たかった。 本当に、たかだか悪戯をするためにこの馬鹿は。 風邪をひいたらどうする気なの? さて、どうしようかと思案して腕を組むと、むにゃむにゃと滝が何かしゃべっている。 耳を寄せると 「うー…〜、私が美しいのだぁ〜」 「何言ってんだか」 「〜、ふふっ」 「笑っちゃって…」 「……めりーくりすます」 私がぷれぜんとだ。と、寝言ながらに宣言した滝夜叉丸をこのまま頂いても、もてあましそうだなと、思わず笑ってしまった。 終 08年メリリークリスマス企画 完全に私の趣味 |