一人きりの逢瀬




























自然と閉じた瞼。
前髪の長さを合わせようと、タカ丸の指が額に触れる。
くすぐったい感触を堪えて、じっとする。
思わず口が微笑んでしまいそうになるのを必死に我慢して、平静を装った。


ちゃん、ちゃんと髪の毛手入れしてあるね〜」
「本当?」
「うん、本当。いじってて、とっても楽しいよ」
「よかった」


そこで、ようやく本当の笑みを浮かべる。
目を閉じているけど、タカ丸も笑ってくれたと感じた。
髪に触れるタカ丸の手はとても優しい。
まるで、愛を紡ぐようにすごく気を払って鋏と櫛を入れていく。
そんな真剣な眼差しが自分に本当にそそがれているのかと、ちらりと片目を開ける。
すると、その途端、後ろ髪から横へと彼の手が滑ってきて、ほんの少し指が耳に触れる。


「ん〜、やっぱり、これくらいの長さがいいかな?」
「タカ丸の好きにしていいからね?」
「ふふ、言われなくっても、ちゃんが一番かわいく見える髪型にしてあげる」


じゃあ、もう少しだけ前髪いじるね?と、再び彼の指先が前髪に触れる。
わずかに動く鋏の音。
ああ、ほんの一瞬肌を掠めた彼の指で、そこへ一気に意識が集中してしまう。
焦げてしまっているようだ。
じりじりと、音を立てる私の肌に彼の指の冷たさが心地いい。
胸の中がきゅうっと締まって、もうどうにかなってしまいそうだった。


「あ、あの!」
「で〜きった!」


思わず自分から声を掛けてしまった瞬間、彼から声が掛けられた。


「はい、これでいいよ」
「う、あ、ありがとう」
「どういたしまして〜」


にっこりとほほ笑むタカ丸と対面。
もう、私の心臓が壊れる寸前だというのに。


「あ、ちゃん」


さらに、彼はとどめを刺す。


「ほっぺに、髪の毛ついてる」


今度は、頬に手をあてて、親指の腹でついていた髪の毛を払ってくれた。
まるで、恋人同士のようだと、うぬぼれてしまった。


「うん、やっぱりかわいい!…じゃあ、僕行くね?」


ばいばいと、手を振って行ってしまう彼の背中を見送ることしかできなかった。
顔を真っ赤にさせた私は一人、タカ丸がふれた前髪に、頬に手を当てて目を閉じた。


ツンッと鼻の奥が痛い。


遠くで聞こえたのは、タカ丸が恋人を呼ぶ声。
それは、私じゃなくて。
やっぱり、切なくなった。













































切なくって涙が出るよ