知らなかった ぎりりと、忍術学園のとある一室で、にらみ合った三人がいた。 といっても、牙をむくように睨みつけているのは会計委員ただ一人のくのたまである。 まるでをなだめるように、その背後には田村三木ヱ門が張り付き、が睨みつけている綾部喜八郎に喰ってかからないように見張っていた。 「あー、そう。馬鹿は私たち作法の予算はあげてくれないんだー」 「ああ!あげないよ!あげるもんか馬鹿喜八郎綾部!」 「おやまあ、馬鹿はのほうでしょ?バカバカバカバカ〜」 「馬鹿って言った方が馬鹿なんです!ばーか!お前にやる予算なんてないよーだっ!」 委員会が始まってすぐに姿を見せた綾部は、唐突に予算を上げろと言い始め、それを同学年のが拒否したもんだから、口論が始まった。 口の渇きも覚えないのか、延々と口論を続ける。 まさに、終わりなんて見えない戦いだ。 「綾部なんてだいっきらい!顔も見たくない!ばーか!」 ぷつん。 「へ、え、は私の顔見るの嫌なんだ」 「嫌だね、もう綾部なんてずっと穴でもほってればいいんだよ!」 頭に血が上っているの口は止まらない。 「私たち会計委員の部屋に上がりこんで、予算上げろなんて言われたってあげるわけないじゃん」 はんっ、鼻で笑ったににっこりと、綾部が微笑んだ。 「そう、じゃあ、ばいばーい」 「は?え?」 「!!」 頭に血が上っていたせいか、咄嗟の反応もできずには自分が落ちることだけを認識した。 かくんと、足元が抜けてそのまま綺麗に足元から、落下。 「ぎゃああああああああ……」 「あ、綾部喜八郎〜!てめぇ!」 「おやまあ、潮江文次郎先輩、私のせいですか?私のせいなんですか?仙蔵先輩助けて―」 顔を真っ青にして怒鳴った文次郎に全く動じずに、綾部は棒読みの捨て台詞を残して部屋から出て行ってしまった。 残された会計委員の面々はただ呆然と、自分たちの会計室にいつの間にか仕掛けられていた罠に背筋を凍らせた。 そして、ただ祈った。 無事で、あれと。 それしかできなかったので、そのまま山のように積まれた帳簿の前にまた各々戻っていった。 なんて、狭いんだ。 「せ、狭い」 は殆どぴったりと言っていいほど、体の前面を目の前の壁に貼りつけるしかなかった。 いや、少しは余裕があるが…… 「……お前のせいだからな」 「……私じゃないでしょ、綾部でしょ。三木ヱ門なんでいるの」 背後には同じように壁に体の前面を向けているであろう三木ヱ門がいた。 二人揃って四角い穴の中に落ちていた。 「はぁ……助けようとしたら」 「このざまってわけね。ありがとうって言っておくけどさ」 はぁ、とため息をつく音が三木ヱ門の耳に届いた。 「お願いだからきっちり助けてよ〜」 「ごめん」 バツが悪そうに、言っているがそんなに感情もこもっていない。 しかし、今さらそれをここで責めてみても何も変わらない。 「とりあえず、喜八郎のご機嫌が直るか、先輩たちが助けてくれるのを待つしか」 三木ヱ門の声を聞きながら、ふっと潮江先輩の顔を思い浮かべた。 絶対に、作法委員に予算を出すと言う救出方法はないだろうし…… 「し、潮江先輩〜助けて〜〜……」 それでも、自分の大好きな委員長だ。 自然と助けを求めてしまっていた。 ぴくりと、背後の体が動く。 それで、は気付いてしまった。 こんなにも密着する場所に三木ヱ門と二人きりだと。 「……」 「……」 微かに身じろぎする程度でも、お尻のちょっと上の方に三木ヱ門の体が触れるのが分かる。 多分……互いのお尻だろう。 自分より背が少しだけ高い三木ヱ門のお尻が自分の腰よりもちょっと下のあたりに触れるのはわかるが……その柔らかさというか、体というか、意識してしまう。 「う〜……」 「どうした?」 どうしようと、壁に思いっきり張り付いてみたが、すぐに体力を使ってしまう事に気付き、自然と体は勝手に楽な体勢を取ろうとする。 すると、今度は背中が触れあう。 肩甲骨だろうか、ごつごつとした自分とは違う背中の感触。 思ったより広いだなんて、考えてしまってから急に顔が熱くなるのを感じた。 「な、なんでもない!!」 「そ……か?」 「うん!は、早く潮江先輩助けにきてくれるといいね!!」 「………はぁ」 なぜ……そこで、ため息!? と、が冷や汗を垂らしていることを知ってか知らずか、ぽつりと三木ヱ門の声が響く。 「」 「は、はい」 三木ヱ門の体が動く。 なぜか、どきりと心臓が跳ね上がる。 体が、触れ合っているだけじゃないか。 「んっ、よ……っと」 「っっ!!?」 声ならぬ声。 狭苦しいこんな場所で、対角線をうまく利用したのか、の体を壁に幾分か押しやりながら三木ヱ門は体を回転させた。 つまり、それは 「」 真後ろで、三木ヱ門の声がする。 うなじに三木ヱ門の息がかかる。 くすぐったさも苦しさも、なにも感じずにただただ、何も考えられない。 あまたが、ぐるぐるしている。 耳元で囁く三木ヱ門の声はこの四年間で聞いたこともないような声で、つくりと胸の内を掬いあげられた。 「潮江先輩よりも、私を頼れよ」 くつくつと、分かってないなぁという三木ヱ門の笑い声。 「大丈夫だよ。すぐ喜八郎がくる」 「え、あ」 「それか、タカ丸さんと約束してただろ?今夜髪の毛の手入れするって」 「な、ど、どうしてそれを!?」 「ばーか。滝夜叉丸に話せば、すぐに私の耳にだって入る」 「うっ……」 するりと、胴に腕が回された。 軽く後ろに引っ張られると目の前を、窮屈に埋めていた壁との間に少しだけ余裕が出来た。 たったそれだけなのに、相変わらず頭は破裂しそうなのに、三木ヱ門の体温に安心した。 「、私もさ、一緒に行っていい?」 だめだなんて答えられるわけないじゃん。 「いいよ」 「やった」 顔も見てないのに、今すごく嬉しそうに笑っている三木ヱ門の顔が分かる。 「でもね、三木」 「ん?」 「も、もう少しだけ……こうしてたい…です」 互いの名前を呼ぼうとした瞬間だった。 「おむすびころりんすっとんとん!」 顔の高さと同じぐらいの場所からがらりと音を立てて綾部の顔がのぞいた。 「なっ!!?」 「っっ!!?」 「わあ!破廉恥二人だすっとこどっこい!!」 ばたんと、また閉じてしまった。 「「あ、っやべえええええええ!!!」」 終 なんだこれ |