わがままな奴 が冷たい脚を突っ込むと、既にあたたかくなっていた炬燵に足を入れていた三木ヱ門は露骨に嫌そうな顔をした。しかし、すぐさま嬉しそうに顔を緩めてたを見るとそれにつられるように微笑んだ。 「あー…あったかい」 くすくすと笑いをこぼしているのはタカ丸だ。彼は、腕まで炬燵の中にもぐらせて、にこにこと微笑みながら綾部が一心不乱に剥きつづけている蜜柑を待っている。 綾部は一つ剥いて、自分で半分ほど一気にほおばると残りをタカ丸の前に放り出して次のミカンに取りかかっていた。 「ああ!?綾部!またお前はー……せめて、せめて皮を重ねろ」 お茶を取って戻ってきた滝夜叉丸が綾部の前に散らかり放題になっているミカンの皮を見て眉根を寄せた。 そんな滝の方を見向きもせずに綾部は横にずれて滝夜叉丸が入れるように場所を空け、そこにそのまま滝は膝をついた。 「んっ…滝夜叉丸の分ね」 「あ、ありがとう」 ついっと、綾部は滝夜叉丸の方へと剥いた蜜柑を差し出した。わざわざ戻るまで取っておいたのだろう。滝夜叉丸の前に置かれた蜜柑は白い筋一つなく、綺麗な橙色をしていた。 「綾部ー、私の分はー?」 中で五人の足が窮屈そうに触れ合ったり、離れたりしていた。それなのに、はわさわさと足を動かして、綾部に蜜柑を強請る。 「のは今剥いてあげるから待ってるよーに」 「はーい」 嬉しそうににっこり笑うと、隣のタカ丸の真似をしては腕をずぼっと炬燵の中に突っ込んだ。 「タカ丸、そのみかんおいしい?」 「おいしー」 もくもくと口を動かすタカ丸のことをうらやましそうに見ている。 「」 そんな中、小さく三木ヱ門がの名前を呟いたが、誰も気づかなかった。 すると、詰まらなそうに三木ヱ門はちょっと唇を尖らせたがすぐに、何かを思いついたように笑みに変わるが、やはり気付くものはいなかった。 みな、蜜柑に夢中になりすぎていたのだ。 は、不意にちょっとだけ眉を寄せた。 そんな変化に気付いているのは、彼女の向かいに座っている三木ヱ門だけだった。 「はい、にどーぞ」 「あっ……あ、ありがとう綾部」 「はい次ー」 はもぞもぞと手を炬燵の中からだすと、蜜柑をほおばりだした。 しかし、なんとも浮かない顔。 タカ丸がを下からのぞきこんだ。 「ちゃんー?すっぱい?」 「う、ううん、甘いよ。とってもおいしい」 「そう?」 慌てて、笑顔を作るにタカ丸は安心したのか、また綾部が剥きだした蜜柑の方を見だした。 炬燵の中で、一人だけ伸ばしていれていたの足を、三木ヱ門が捕えていた。 の足袋を人知れずは片方脱がしてしまい、露わになったつま先に指を這わせていた。 指先から、指の股をくすぐり下へと降りていていく。 くすぐったさと、困惑での頭の中はいっぱいになった。 三木ヱ門のことを蜜柑をほおばりながらも、睨みつけると悪戯っぽく笑うばかり。 「どうした?」 「う、ううん。なんでもない」 そればかりか、いけしゃあしゃあと自分から声をかけてくるなんて。 みんな、蜜柑に夢中になっているから、二人のことを気にしていない。だけど、誰かが少しでも足を伸ばしたら気付かれてしまう。 どきりと、の心臓が声を漏らした。 三木ヱ門の足が伸びてきた。 の足の間をするすると三木ヱ門の片足が伸びてくる。 逃げようにも、彼がしっかりとの足を捕まえているせいで逃げられない。 「んっ」 極めて小さい声。 蜜柑を取る手が、震える。 三木ヱ門のつま先が内股をくすぐる。 思わず顔を俯いたの顔は真赤だった。 「綾部、私にもくれ」 「んー…三木ヱ門のぶーん」 タカ丸にひと房づつ食べさせていたのをやめて、綾部は早速次の蜜柑にとりかかる。 「あーん…寒いのにぃ」 そのせいでタカ丸は、温めていた手を炬燵の中からだして蜜柑の残りを自分で食べ始めた。 三木ヱ門はにこりと笑って綾部が蜜柑を剥くのを待ち始めた。 その癖に、炬燵の中では三木ヱ門の足がじれったいほど、伸びつつあった。 は、微かに震えている。 その様子すら最早、三木ヱ門にとっては興奮をくすぐる姿でしかなかった。 遂に、三木のつま先はの足の間に辿り着いた。 声を殺して体をびくりとふるわせる。 足は依然として掴まれているが、ここで暴れれば三人に自分が何をされているかがばれてしまう。 は、黙るほかなかった。 無言で三木ヱ門を睨みつけると、彼は微笑みながら肩をすくめて見せる。 口の中の蜜柑ばかりが甘い。 「ふっ……ん」 「ん?どうした?」 「な、何でもない!た、滝お茶飲もうよ!お茶ちょうだい」 「あ、ああ」 お茶を受け取り、滝の視線がそれた瞬間に、三木ヱ門のつま先がぐりぐりとの敏感な部分を刺激した。 びくりと頬をそめて顔を震わせたに、今度こそ皆の視線が集まった。 「ちゃん?」 「?」 「あ、や、ん…そ、その」 答えに困っているというのに、三木ヱ門のつま先は躊躇せずにつま先を押し付けてくる。 必死にこらえているが、じわりとの目尻には涙が浮かんでくる。 「?」 「うっ…」 「、具合悪いんだろう?一緒に保健室行こう」 突然三木ヱ門は立ち上がり、困惑しているの手を取ると無理やり部屋から連れ出していった。 取り残された三人は呆然とその様子を見ているだけだった。 しかし、しばらくすると滝夜叉丸だけがやれやれといった様子で首を振っていた。 廊下の冷たさが、の片足だけに響く。 前を行く三木ヱ門の髪が、その首筋でゆらゆらと揺れている。 泣きたくもないのに、なぜか涙がこぼれてきていた。 「なんで……なんで、あん…なこと」 「したか、か?」 不意に振り返った三木ヱ門の顔がジワリと滲む。 体を引き寄せられ、は嫌でも三木ヱ門の匂いを胸一杯に吸い込んでしまった。 それなのに、三木ヱ門はたっぷりと甘さを含めてに囁いた。 「僕以外に、おねだりなんてするからだ」 終 なんてやつなんだ。まったく。 |