命取り 顔見知りの孫兵が私の姿を見かけるなり、大慌てで走り寄ってきた。 違和感を感じるが、そんなことよりも気になるのはその孫兵が両目いっぱいに涙を浮かべてふるふると今にも涙が零れてしまいそうなことだ。 「ちょ、ちょっと!孫どうしたの?」 「うっ、先輩っ!!」 「わわ、泣かないで!ね?どうしちゃったの?」 ぐずぐずと鼻を啜りながら、必死に涙がこぼれるのを我慢している所を見るとやっぱり年下でも男の子だなと思ってしまう。 よしよしと、年長者の余裕を見せながらも、こう理由も分からないまま泣かれ続けても困ってしまう。 なんとか促すと、孫兵はやっと口を開いた。 「ジュ、ジュンコが!ジュンコが散歩に行ったまま帰ってこないんです」 ああ、なるほど。それで孫兵を見ても違和感を感じたわけだ。 首にいつも恋人よろしく巻きついているはずのジュンコがいないため、なんだか頭巾を忘れて任務に行ってしまった忍者のように間が抜けた感じがする。 「なるほど、またジュンコちゃん散歩に行っちゃったのか」 散歩というか、脱走というか。 そもそも、孫兵と仲良くなったのもジュンコちゃんが逃げ出したのを探すのに、幾度か付き合ってあげたからだった。だから、それが理由ならばもう困惑することはない。 私が言うべき言葉はたった二言で済む。 「一緒に探そう?」 「……、先輩っ!!はい!!」 まだ孫兵のほっぺたは涙でぬれていたが、ようやく孫兵の唇は頬笑みを浮かべた。 早速、私たちは既に探した場所と、ジュンコの居そうなところを手分けして探すことにした。 「それじゃあ、僕は竹谷先輩たちの所に行ってきます」 「うん、生物委員の人に手伝ってもらった方がいいもんね」 「先輩は裏山の方、お願いしますね!」 「まかせて!ジュンコちゃんいたら、ばっちり孫が心配してたって言い聞かせてあげるから」 ありがとうございますと、元気よく言った孫兵の顔がちょっぴり赤みがさしていた。 本当に、ジュンコちゃんのことが大事なんだろうなと、胸がきゅんとなってしまった。 走っていく孫兵を見送った私は、気合を一つ入れてから裏山へと向かった。 「ジュンコちゃーん?」 裏山の中で、私の声がこだまする。 ジュンコが返事をするわけでもなく、私はとりあえず名前を呼びながら枝の上や、茂み、窪み、木のうろなど居そうな場所を探していく。 だけど、鳥肌が立ってしまうような虫やら小さな獣やら、全然違う爬虫類などが飛び出してきたりするだけで、お尋ね者のジュンコちゃんは出てこない。 裏山にいないのかもしれない。 「ジュンコちゃーん!孫兵が心配してるよー!」 ガサガサと盛大な音を立てて、茂みを探していると、突然後ろから名前を呼ばれた。 「?何してるんだ?」 「え?三木?」 四つん這いのまま動きを止めて、後ろを振り向こうとした瞬間、目の端に赤が飛び込んできた。 思わず、手を伸ばしてそれを掴んでしまった。 冷たい様な硬い様なあの独特な感触。 「ジュンコ!?って、あっ!!」 「!?どうした!?」 腕に走る痛みに、顔をしかめる。 襟首を三木ヱ門に掴まれて、引き起こされた。 「!」 「あ、い……たた」 布の上にジワリと広がっていく赤い染み。 「はは、三木。やっちゃった…毒蛇にかまれちゃった」 「なっ!!?、見るぞ!?」 「う、ん」 じくじくと変な痛みを感じる。 噛みついた蛇はどうやらジュンコちゃんと同じ色目の蛇だったようだが、ジュンコではなかった。 もう、どこかへ行ってしまったようで、その姿を見ることはできなかった。 三木は私の袖をめくりあげて、噛まれた場所を見た。 焦りを含んだ声で、早口に何か刃物を持っていないかと問われたが、生憎今日に限って持っていなかった。 「くっ、早くしないと」 「三木も持ってないの?」 「……」 「持ってないのー!?ど、どうしよう…やばい、痛いし段々ぐるぐるしてきたかも」 「」 その瞬間、体の中がどくどくと鼓動の度に痛んでいた筈なのに、とても静かだった。 風の音も、何にも聞こえない。 真剣な目をした三木が、私のことをじっと見ていた。 「痛いが、我慢しろ」 「え?」 さっと、嫌な予感が走り抜ける。 「ま、まさか?三木…やだ!」 三木ヱ門が素早く懐から取り出した物を見て、その予感が当たっていたことに泣きたくなった。 それでも、淡々と三木ヱ門は私の腕を押さえつけてさっと火薬を一匁程乗せた。 僅か、瞬きをするほどの時間。 知らず知らず顔が強張ってしまう。絶対痛いのは目に見えて分かっている。 その上、それしか方法がないのも理解してた。 「、行くぞ」 殆どその声と同時に三木の持っていた火種が、火薬の上に落とされた。 破裂音。 「うっぐぅああああ!!」 火薬のにおいが鼻を突く。 痛みと、熱とで体が震える。 しっかりと、抑えられた三木ヱ門の腕から逃げることもできずに、その場で痛みに悶えた。 「」 「はぁ…はぁ…ば、馬鹿三木」 涙も何もかも出てしまっている私の顔を見て、三木はわざとらしく大きくため息をついた。 「、頼むから……心配させないでくれ」 「いた・・・・い。うー…痕、残っちゃう…」 「ん?」 ほどいた自分の頭巾を私の傷に巻きつけながら、三木はにっこり微笑んだ。 「大丈夫」 「なんで?」 「責任はとる」 「えっ」 腕の痛みも感じないほどに、私の心臓が跳ね上がった。 「み、三木それって」 「さあ!早く保健室行くぞ!!」 腕を引っ張って、先を歩きだした三木ヱ門の耳が真赤になっているのを見て、私も顔に熱が集まる。まともに、前も見ることもできずに掴まれた手の熱ばかりを、意識してしまった。 「あれ?先輩、腕、どうしたんですか?」 「ん?うん、ちょっとねー」 「変な先輩…ね?ジュンコー」 終 ジュンコは真っ先に孫兵が見つけていたり。 |