手のひらごしにはじめよう
暑くて気だるい空気が充満している。
それでも、外よりは少しはましだとは言える。
だけど、暑くて、暑くてどうにかなってしまいそうな気がしていた。
何でこんなに暑いのかって、きっとさっきまでいた裏山で延々と薬草を摘んでいたからだった。
「う〜……これも予算委員会のせいだ」
そう、先の予算会議の末、いつも通りの不運を発揮した私たち保健委員は案の定ぎりぎりの予算しかもらうことができなかったのだ。
これ以上の不運が訪れるというのも分かっていたので、さっさと退散して代わりに薬草摘みをして予算をなんとか稼ぐという戦法をとった伊作先輩だったが、やっぱり不運。
まさか、季節はずれの炎天下になろうとは。
ようやく終わったころには、全員汗だくになって各々の部屋に戻っていった。
私も、他の子たち同様ぐったりとこうして部屋に転がっているわけもうなづける。
ああ、もういや。
伊作先輩が言いださなければ、あんな炎天下の中薬草摘みなんて絶対にしないんだから!
――ガラッ
「あ」
「あ」
三木エ門が戸をあけて、戸を閉めた。
私は、めんどくさかったのでそのままねっ転がったまま。
また、戸が開いた。
「!?」
「なによ」
「……ここは私の部屋だ」
「知ってる」
はあ、と盛大にため息をついて、さらりと前髪を流した三木エ門。
諦めたように戸を閉めた。
「なんだって、私の部屋にねっ転がってるんだよ」
「だって、三木のせいで暑かったんだもん」
「はぁ?」
「予算削られたのよ」
「……なるほどね」
それだけで、大体のことを察した三木エ門にはごろりと転がってふくれっ面を見せた。
「私が干からびたら三木、どうする気?」
「どうもしない」
「だって、干からびちゃったら私の伊作先輩への思いはどうなるのよ!」
「だーかーらー、私はどうもしないって!」
「ばーか。バカ三木エ門〜!」
「うるさいなぁ!それだったら、伊作先輩の部屋にでも忍び込んで、先輩の前でごろごろしてればいいだろ!?」
「……馬鹿ねぇ、乙女の恥じらいってもんがあるでしょ」
もう一度馬鹿ねと、は繰り返して今度は三木エ門に背を向けた。
しっとりと、汗をかいていたせいか、の体に着物が張り付いていた。
「……、もう自分の部屋に帰れよ」
「やーだ。ここでもう少し憂さ晴らしでもしないと帰れない」
「本当に、戻らないのか?」
「もどんなーい」
髪が幾本かの束になっての首筋に張り付いている。
白と黒とのコントラストが、魅惑的に三木エ門の目を捕まえた。
知らず知らずのうちに三木エ門自身の手は、己の首筋に触れ、ほつれた後れ毛をすくい上げた。
「」
自分でも、驚くくらいかすれた声が喉から出た。
けだるそうに、上半身をひねってこちらを向く。
胸のふくらみが、呼吸とともに上下するのばかりが目についた。
「戻らないって言ったのも、ここに来たのもの意思だからな」
「え?」
タンッと、軽い足音をたてて、着地したのはの上だった。
驚いて、小さな声をあげたの口を片手で閉じる。
手のひらに触れた彼女の唇の動きだけで、なにか達成感すら感じられる。
覆いかぶさるようにして、その押さえた自分の手のひら越しにに口付けた。
大きく見開かれた目に、一瞬で赤くなったの顔。
私は、それを見てにんまりとほほ笑んだ。
「なんだ、もこんなかわいい顔するじゃないか」
「〜〜〜っっ!!?」
「でも、」
押さえつけたの片手にぐっと力がこもるのを感じたが、私はこの学園一火器の扱いに長けてるんだよ?
力で私にかなうわけないだろ?
「そんな顔するのは、私の前だけにしろ」
耳に言の葉を吹き込んで、耳朶に柔らかくかみつくと、ぴくりと身を固くしてしまった。
そんなに、かわいい反応をするもんだから、今までずっと押さえてていた想いがこぼれた。
「、好きだ」
これから、どうするもなにも、動き出した私は止まることなどできなかった。
愛おしさがこの身からあふれ出る。
ぴったりと密着したのからだの柔らかさも、立ち上ってくる甘い香りも、もどかしく私の手のひらで踊る唇も、全部欲しくなった。
「私だけを見ろ………私だって男だ」
の手が、そっと、私の手に重ねられた。
「……馬鹿、知ってる」
終
攻めてみた
やっぱ裏より雰囲気勝負ww
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