間違ったこと
実習の課題で、数日間某城に潜入してその見取り図を作れだなんていつだったかやったことがあるような課題だった。
ああ、いつだったかの夏休みの宿題だったな。
あれは、五年生の宿題をまんまとやって、滝夜叉丸をやり込めたんだったけ。
思い出し笑いをして、視線を手元の火縄銃に落とした。
この城に潜入して、もうどれくらいだったろうか。
そんなことよりも、この城の見取り図ももう少しで取り終わる。
そう、あとちょっとだ。
「おい、新参。あそこだ」
「ん?」
組を組まされた、中年の男が私の腕を小突いてきたので、そちらの方を見ると、月明かりに照らされて黒い人影が一つ。
ごくりと、喉が鳴る。
その人影が、きょろきょろ周りをうかがっている。
隣から、火薬のにおい。
男が、火縄銃を構えている。
状況的に、なんてばかな忍びだろう。
こんなに月明かりが明るい晩に、のこのこ姿を現すなんて。
あ、火薬のにおいに気付いたな。
相方の標準を合わせる時のくせで、じっくりと時間をかけている。
そうして、一発で頭なりを打ち抜くのが好きな下衆な野郎なんだ。
そんなことが好きだから、この男の銃の腕前もまあまあのもんだった。
「っ!!!?」
私は、戸惑った。
どこから狙われているか必死に探している忍びの顔を見てしまった。
!?
なんでがこんな所に!?
それよりも、このままでは……
だ、だが、だってくのたまの端くれ。
上手く、逃げれるはず。
そうだ!だって、私と同じ4年なのだから、それくらいは。
それに、今ここでを助けてしまえば、この課題は失敗する。
……でも、もし逃げれなかったら?
頭の中を一瞬にして今まで学園で習ってきたことが回る。
先生たちの言葉が無情にも聞こえてくる。
『忍務のためならば、仲間を見捨てることが忍だ』
ワーンと、耳鳴りがする。
汗が、噴き出す。
「へへ……ありゃ、俺が仕留めるからな」
ひどく、ゆっくりした時間が流れた。
研ぎ澄まされた私の感覚が、時を緩やかにする。
全身の力で、自分の体より大きい男の体にぶつかっていく。
夜空を切り裂く一発の銃声。
それを聞くか聞かないかいなや、私はその場から飛び出した。
一瞬で着物を着替え、走る!
走る!走る!!
後ろから幾つもの犬笛やら怒声やらが聞こえてくる。
そんなもの、知ったこっちゃない。
私は、走った!
「っ…う、っく……」
「」
はっと、顔を上げる。
目を真っ赤に泣き腫らしているが、よかった。
どこにも怪我はしていない。
「み、き……このバカ!!!!!!」
馬鹿と、大声で繰り返して私にぶつかってくる。
「無事で、よかった」
「わ、私のことなんか気にしないで…よ……三木だって、課題がっ!」
「が、死ななくて、よかった」
ぽろりと、目から熱いものがこぼれた。
ああ、今ここにあるぬくもりは本物だ。
間違った事と言われたっていい、君を救うことができたから。
「ば……か……」
「よかった」
私たちは、わんわんお互いを抱きしめて泣いた。
間違ったことでを救えるのなら、私は何度だって間違ってやる。
終
三木優秀
さんちょっと落ちこぼれ
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