元気はつらつ?































マラソンが嫌い。
どちらかといえば、長距離なかよりも短距離の方が得意。
一瞬で走って、一瞬で終わらせて気分爽快。
そんな、短距離走の方が好き。
だから、授業で今日はマラソンだって言われると本当にげんなりした気分になる。
どんなに晴天でも暑くなるだけだし、寒ければ寒いという事実だけで走りたくなくなる。
どっちにしたって嫌だってことだ。























始め!という先生の声とともに、思いっきり地面を蹴って自分の中の最速で飛び出した。
後ろで「またってば」という声が聞こえてきたが、私の持論ではついてしまえば、方法はどうでも同じってこと。
私が考え出した走法は、思いっきり走って休んではまた短距離を。だ。
ともかく、誰よりも早く走り出してしばらくすると、前を行く見覚えのある後ろ姿を見つけた。
思わず出た言葉は


「げ」


だった。
私が見つけてしまった背中は同じ学年の綾部の背中だった。
綾部の豊かな髪がゆらゆらと気ままに動いている。
ああ、綾部は苦手なのだ。
何を考えているのかわからない、ちゃんと会話が噛みあわない。
そのくせに


「あ、


やけに勘がいい。
やけに私に絡んでくる。
その度に、私はどうしていいのか分からなくて慌ててしまうだなんて綾部は気づいていないんだろうな。
なのに、変なところで鈍感。
私は、綾部が苦手なんだってば。


「どうしたの?」


振り返って私を見つけた綾部は私が隣に来るまでわざわざ立ち止まって待っていてくれた。
そんな待たなくてもいいのに。
私も、一息入れがてらに綾部の隣で止まって息をついた。


「おやまあ、そんなにはぁはぁして大丈夫?」
「ちょ……っと、変な、言い方、しないで、よ」


確かに息が荒くなっているのはそうなんだけど、言い方が……ちょっと。
私が変態みたいない言い草じゃない。


「私はね〜、金楽寺までマラソンでーす」
「いや、聞いてないし」


金楽寺。なによ、目的地が一緒って……。


「ねぇねぇ、は?私が言ったんだから、早くも教えなよ」
「……金楽寺まで、マラソン」


ほんの少しだけ、普段よりも口の端が上がった気がした。
そして、声だけ嬉しそうに「と一緒だなんて嬉しいなぁ」だなんて言ってくる。
そんなこと言われても、私はどうしていいのか分からないって言うのに。
ともかく、綾部との会話を切り上げて、さっさと逃げちゃおう。


「それじゃあ、綾部!私行くから!!」
「あっ!!………あんなに早く走ってがおにぎりにならないといいけどねぇ」


の姿が森の中に入って見えなくなったころに、綾部は先ほどと同じようにおっとりとした速さで再び走り出した。




























〜、また、私のこと待っていてくれたんだねぇ」
「ち、違うわよ!!」


もう、何度この会話を繰り返しただろう。
級友たちのうちの何人かは私の隣を「お疲れ様、ちゃんとマラソンしなさいよ」と、すり抜けていった。
あからさまに最初に飛ばし過ぎてばててきている私は、それでも自分の走法を変えることなく、短距離を走っては休み、走っては休みしていた。
後半になるほどに一度に走れる距離は短くなるのに、それに反して休憩の時間は伸びて行ってしまう。
そして、いつからか綾部に後ろから追いつかれて一緒に休憩されて、また走り出すというのを繰り返していた。
さらには、追いつかれる度に謎の行動を綾部が取り出したのだ。


「はい、じゃあまた……」
「え?あっ!やめてよ!」
「だめでーす。さあさあ……とぎゅ〜」
「わっ!」


有無言わさずに抱きつかれて、疲れている体をぎゅうぎゅうと綾部が抱きしめてくる。
こちらは、ただでさえ自分なんかよりも綺麗だと思っている綾部の顔が急接近してきて恥ずかしいと思うのに、綾部はなんてことない滝や三木にするのと同じように私を抱きしめてくる。
だが、疲れているためろくな抵抗が出来ない。
それを分かっていて、綾部の方では自分の気が済むまで私のことを抱きしめてくるのだ。


「あー…も、もういいよ!」
「おやまあ、もう元気になったの?」
「え?」
、もう全力で走れる?」
「い、いや走れないけど、恥ずかしいから離れてよ」


うーん……と、うなる声が聞こえたと思ったら、今度はぱっと、綾部と目が合ってしまう。
深くて、吸い込まれそうなくせに、なんてきれいな目なんだろう。
それが、弓なりになった。


「分かった。じゃあ、


ああ、綾部が笑顔になったんだ。
なんてかわいい笑顔なんだろうなんて、どきりとした瞬間、その笑顔が近づいてきて私の耳にはとんでもない言葉が飛び込んできた。


「元気がいっぱい出るちゅー」


あ、と声を上げる暇もなく柔らかい感触。
そして、かわいいリップ音。


ちゅう


離れて、目に映る真ん丸な綾部の瞳。


「おやまあ、まだ足りないみたい。じゃあ、もう一回」


ちゅ





























「み、三木〜〜〜!!!!!!!」
「わ、なんだ
「み、み、みき!!たたたたたた、滝も聞いて!!!」
「私に聞きたいことがあるのか!ふふん、もようやく誰に物を聞けばいいのか分かってきたみたいではないか!さあ、言ってみろ」
「あ、ああ、あ、あ、あ綾部とチューしたことある!?」
「「はあ!?」」





























































アイドルはかわいいです。
アイドルはかわいいんです。
どうしていいのか分からないくらいに。
さあ、皆さん一緒に戸惑うといいです^^