沸騰する前だから































「俺は、絶対すごい忍になって……もてもてになる!!」


大声で、恥じらいもためらいもなく宣言する竹谷に負けじにと、三郎も張り合って馬鹿なことを騒ぎだした。


「そうしたら、俺はそんな竹谷の変装をして、世の中の女性の敵になる!」
「なっ!?さ、三郎!お前、俺の顔にしてなにする気だ!!!」
「……」
「無言ッ!!」


それを見て、げらげら笑う雷蔵と久々知を少し離れた所からは見ていた。
背中を銀杏の木に預けながら、ばかばかしいと思いながらも、どうしても笑ってしまう。


「雷蔵!雷蔵は、私と一緒に竹谷を貶めるために頑張ってくれるよな?」
「うん、いいよ。でも、さすがに敵はかわいそうじゃない?」
「ら、雷蔵〜!そこはだめって三郎に言ってやってくれよ!」
「ごめんごめん」
「おい、久々知!お前もなんか言ってやれ!」
「え?じゃあ、私は竹谷の変装して、道に迷った大豆を助けてあげよう」
「いやいやいや!確実にその大豆は豆腐の道に導かれるだろう!」
「いいじゃないか!!!」
「うわ、久々知そんな興奮すんなよ!」


竹谷に喰ってかかる久々知にびっくりした三郎と雷蔵が、久々知と竹谷の間に止めにはいって、余計に訳がわからなくなってくる。


〜〜!」


笑いをこらえてるの背中を見つけて走ってきた尾浜が、その隣に立った。


「お、どうしたんだあいつら」
「ん?ああ、なんか、三郎が竹谷になって雷蔵と久々知も竹谷になって世の中の大豆はみんな豆腐になるらしいよ」
「は?なんだそれ?」
「しらなーい。将来なりたいものじゃない?」


尾浜と顔を合わせて、余計に笑ってしまった。


「おし、俺もいってこよ」
「ああ、立派な竹谷になれよ」
「まかせろ!」


ぐっと突き出された親指に、同じように親指をたてて返すと、尾浜も四人の所へと突撃していった。
また一人加わって、どんどん笑い声が大きくなっていく。
いつの間にか、三郎も竹谷の変装をして二人の竹谷のどっちがモテそうかで盛り上がりだした。


「将来……か」


ぽつりと、が呟く声を聞き洩らしもせずに、上から声が降ってきた。


「なんだい。ちゃんは何かなりたいものでもあるのかい?」
「………そういう登場は、肝が冷えるので、やめてください」
「んー?そうかい?そんな驚いた?声一つ出さないじゃないか」


突然横に逆さの顔がぶら下がって驚かないわけがない。
楽しげに眼を細めて笑う雑渡の逆になった顔を、は苦笑交じりで見つめた。


「我慢したんです。それに、5度目だから我慢できただけですよ」
「ふーん」


じゃあ、次はどうやって登場しようかなだなんて、楽しげに呟かれてしまうと怒る気なんて失せてしまう。
がその意味を考える前に、雑渡は言葉を紡いだ。


「それで?ちゃんのなりたいものって?」
「もちろん……優秀な忍でしょうね」


漠然とした形をした未来の自分を頭の中で思い描いてみると、どくりと心臓が高鳴った。
なんだかんだいって、五人の頭の中にもそれぞれ漠然としていても同じように輝かしい自分が思い描かれているのだろう。
しかし、雑渡は水を差すようなことをいけしゃあしゃあと言い放つ。


「ああ、君には無理だろうねー」
「え?……ま、まだ分からないじゃないですか」


拗ねて、唇を尖らせるの横に、とんっと軽い音をたてながら雑渡が並んだ。


「あはは、分かるよ。これでも一応忍頭なんてやってるからね」
「り、理由は何ですか!」
「ん?聞きたい?」
「聞きたいです」


頭を撫でながら雑渡は朗らかに言う。


「君、目立ちすぎるから」
「え?」
「なんでだろうねー。すっごい目につくんだよね」
「そ、それは」


頑張れば、目立たなくなるかもしれないと、まるで消え入るようには口の中で呟いた。


「よしよし、君の将来は私が責任もって用意してあげるから」
「え……それってもしかして緒泉さんたちとどう」


が言いきる前に、すっと雑渡の指がの頬をなぞる。


かさついた、包帯越しの指。


「私のお嫁さん」
「なっ!!!」
「あ!曲者だ―――!!!」


雑渡の顔が目の前にあると思った瞬間、竹谷の声が飛んできた。


「ふふ、残念。また今度、ゆっくり返事聞かせてね」


ばいばいと聞こえたと思ったのと同時に、雑渡の姿が目の前から消えてしまった。


「あっちだ!」


尾浜の声につられる様に、上を見上げてみれば楽しげに逃げていく雑渡の後ろ姿だけが見えた。


どうした?お前も追いかけるだろ!」
「っ〜〜〜馬鹿!」
「は、え???」






























ぬるい