たったひとつ!2 布団の中でまどろみを十分に楽しんでいると、誰かがゆさゆさと私の体を揺すってきた。 それでも、この魅力的な夢うつつから目覚めるのはほんのばかしおしい気がしてしまって、小さく唸り声は上げた。 すると、私の部屋では聞こえちゃいけないはずの声が聞こえて一気に意識が覚醒した。 「おやまぁ、〜起きないの〜?」 「う、あ、綾部!!!?」 布団から頭を出すと、予想通りの綾部喜八郎が私を依然ゆさゆさと揺すりながら「起きた起きた」と繰り返していた。 「な、なんであんたがここに!」 「わー、の髪の毛ぐちゃぐちゃだねぇ。私の寝起きにも負けないよ」 「ぎゃ、み、みないでよ!」 「はーい」 私はね、毎朝タカ丸さんに無理やり髪を結われてるから、もそうするといい等と言いながらぱちりと、大人しく瞼を閉じる綾部だったが、そもそも私の部屋にいること自体がおかしい。 何が悲しくてこんな寝起き姿を綾部に見せなきゃいけないんだ。 慌てて手で髪の毛を撫でつけて、なんとか体裁を整える。 「それで、なんで綾部がここにいるのよ」 「私は、滝夜叉丸ががいないって喚いていてうるさいから、いっそのことを呼んできちゃえば滝も黙るかなぁって」 「は?滝がどうして」 「だって、今日は……」 スターン! 私の部屋の戸が勢い良く開くと、肩で息をした竹谷先輩が部屋の中へ転がり込んできた。 なんだこれは、 何の罰ゲームだ。 勢いよく部屋の中へと転がり込んできた竹谷先輩は、勢い余って私に大激突した。 体格の差も手伝って、軽く後ろへ吹っ飛ぶ私。 おー!と、感動の声を上げる綾部。 焦って私を起こして、謝る竹谷先輩。 「って、と綾部はそういう関係だったのか!」 「いやいや、いきなり何を言ってるんですか。竹谷先輩」 「ええ、竹谷先輩私とはそういう関係なのです」 「綾部、よくわからないのに面白そうだからって返事しないの!」 「はーい」 とりあえず綾部を黙らせて、どうして私の部屋へ飛び込んできたのか竹谷先輩に問いかけると「おおそうだった!」と、私の肩をがっしりと掴んだ竹谷先輩。 思ったより痛くはないが、力強い手でがっちりと捕まった。 「!お前こんな所でなにしてんだ!」 「はい?何って、寝てたんですが……」 「お、お前!三郎と約束したんだろ!?」 「え?何のことです?」 飽きてしまったのか、綾部がくるくると言いながら私の髪の毛で遊び始めたが、竹谷先輩のせいでそれを止めることさえできない。 ああ、あとで髪の毛縺れたの直すの大変だなぁ。 「三郎先輩となんか約束してましたっけ?それより、なんで竹谷先輩ちょっとボロボロなんですか?」 「〜……お前」 がくぅっと言いながら項垂れた先輩は、なんだかところどころ切り傷あるし、なんかぼろぼろだし。 一体全体どうしたのだろう。 「おやまぁ、、私も私もー」 「わ、綾部も?」 ぐてーと、私と竹谷先輩の間に入り込んで、膝の上に体を滑り込ませてきた綾部も確かに装束がところどころ焦げている。 あ、これ三木ヱ門? それとも、仙蔵先輩? 綾部はどっちにも怒られそうで、どっちがやったかなんて私には判別がつかなかった。 「あれー?本当だ。綾部も誰にやられたの?」 「はぁ……頼むよ、」 「え?なんですか竹谷先輩、そんなに私何かしくじりました?」 項垂れていた竹谷先輩が、ガッと顔を上げたから、間近で眼と眼が合う。 「お前、今日は武道大会だろ!」 「あ」 すっかり忘れていた。 というか、今日だったんだ。大会。 続 多分。 |