たったひとつ! 「!」 ぽかぽかと温かい日差しの中には、ほんのりと花の香りが漂っている。 ほころび始めた蕾が、季節の移り変わりをそっと伝え始めたそんな日。 なにやら、私がぼうっとしていることをいいことに滝が隣に立って、ぐだぐだと話を続けていた。 それを聞きもせずに受け流していると、突然名前を鋭く呼ばたので暢気に彼へと振り向いた。 すると、笑顔満面自信満々で平滝夜叉丸が私の手を握りしめた。 「というわけで、私がまた学園一に輝いた暁には私のものになってくれるな!」 「は?」 「この美しい滝夜叉丸が、見事、武道大会の勝利をに捧げてみせよう!」 滝は胸元から真赤な薔薇を一輪とりだすと、私の顔面に押し付けてきた。 そして、美しくて優秀な滝夜叉丸がすぐにお前のものになるだか何だかと、なにやら物騒なことをグダグダしゃべりながら、滝夜叉丸は行ってしまった。 「っへっくしゅ!」 強すぎる花の香りは、鼻がむずむずした。 さて、この赤い花と不気味なことを口走っていた滝夜叉丸をどうしようかと考え始めた所で、もう一度くしゃみをしてしまった。 あー……滝夜叉丸アレルギーなのかもしれない。 「ぶ、ぶははははは!なんだよ、!その顔!」 「え?」 「お前のくしゃみおっさんみたいだぞ」 突然背中をばしばし叩かれて笑われてしまい、戸惑っている私が見たのは、濃紺の装束を着た新野先生が腹を押さえている様子だった。 「さ、三郎先輩…そんな変装してうろうろしてるなんて、新野先生に失礼じゃないですか?」 「〜、むしろお前の言い方の方が新野先生に対して失礼だろ」 笑われて悔しいから、三郎先輩へパンチを一つお見舞いしてやろうすると、その手はやすやすとかわされてしまった。 その上、私の手首を掴んだ三郎先輩は、ぐっと私のことを引っ張った。 そんなもんだから、手に持っていた薔薇は落としてしまうし、いやがおうでも間近で新野先生の変装をした三郎先輩の顔を見る羽目になった。 露骨に顔をそらすに三郎が笑いをかみ殺して、変装をいつもの雷蔵の顔へと変える。 「、私のこと見て?」 「嫌です。新野先生の事を侮辱するように仕向けて来る三郎先輩なんて嫌です」 「いやいやいや、誰もそんなことしてないから」 「う…うー」 がっつりと、頬を掴まれて無理やり顔を向けさせられたは、不服そうに三郎のことを見上げていた。 なんとも、この身長差のせいで馬鹿にされやすいのだろうと、は勝手に思っていた。 「なあ、」 「なんですか、先輩」 「今度武道大会あるだろ?」 「ふぁい」 普段よりも、断然機嫌がいい三郎先輩。 春だからだろうか。 「私があれで優勝したら、をちょうだい」 「は?」 「ね?」 「は?」 「を僕にください!!」 「はっ!?んんん!!?」 顔を押さえられていたから、よけることもできなかった。 触れるだけでも、口付けは口付けだった。 刹那の瞬間の触れ合いは、嘘だと言えば嘘になるのかもしれないが、目の前の三郎がにんまりと笑みを深くした。 「はい、前借」 「ば、ばかああああああ!」 思いきり振りあげた手を下したというのに、あんなに密着していた筈の三郎先輩はぱっと身をひるがえして充分な距離を保っていた。 反撃するには間合いは遠すぎる。すぐに三郎先輩は逃げ出せるその距離。こちらが逃げれば、すぐさま捕まってしまう、そんな間合い。 「それじゃあ、。私が優勝するから、首洗って待ってろよ!」 「ちょ、ちょっと!」 ひらりと手を振ったかと思うと、すぐに三郎先輩の背中は小さくなっていった。 しまった。これは、一体どうしたことか。 私の意思は無視か。 「し、しかも滝夜叉丸と、三郎先輩?」 どうして、こうもあの二人が自分に勝利を捧げようとしているのか、皆目見当もつかなかったがそこには私の感情やら意志が無関係なことは明白だった。 「え?そもそも、武道大会とかいつあんの?」 とりあえず、小腹がすいたので食堂でお団子でも食べようとは、その場を立ち去った。 続 覚えていたら、続き書きます |