十一



























すっかり寝不足の目に痛みすら覚え、両足を引きずるように食堂へ向かった。
朝に似合う、味噌汁のにおいと炊き立ての米の匂い。
ひどく穏やかだ。
昨日までも同じように毎朝食堂に行っていたのに、今、初めて嗅ぐような気がする。
寝不足でも、頭はやけにすっきりしていた。


「おはよーござます」
「あら、食満君おはよう」
「おばちゃん、朝食ひとつお願いします」
「はいよ。ん?あらまあ、昨日遅くまで起きてたんでしょ?目元が潮江君みたいよ」
「やめてください!あんな鍛錬馬鹿と一緒にしないでくださいよー」
「そうかい?はい、お待ちどうさま」
「ありがとうございます」


手にしたお盆からは、焼き魚のいい香りが鼻をくすぐった。
後ろを振り返れば、見慣れた色の装束の五人組。
小平太の横に腰を下ろすと、皆こちらに一瞥もくれずに「おはよう」と声をかけてくる。


「おはよ」
「留三郎、焼き魚食べないのか?私が食べてやろう」
「は?あ、ちょ!小平太やめろ!まだ俺は箸すらつけてねーから!!」
「ん?そうだったか?」


小平太がとぼけながらも伸ばしてくる手を掴んで、何とか阻止する。
一瞬にして賑やかさを増す食堂の中で、自分の耳がめざとく一つの笑い声を拾い上げた。
知らず知らず反応してしまう体。
条件反射といってもいい。
わずかに顔を動かした先に、の姿を見つけてしまった。
俺の体がこわばったのを不思議に思った小平太がその視線の先をたぐった。


「あ、ちゃんじゃーん」


もう一度こちらをみた小平太の顔は、歯を見せるほどの笑顔になっていた。


「留三郎のおかずはあっちか!」
「なっ!!?ば、ばかやろう!」
「そうかそうか、それならその魚は私がもらったってかまわないよな」
「かまうわ!」


ぐっと、小平太を押し返して「いただきます」と、勢いよく食事をがっつきはじめる。


「ちぇーなんだよ。食満留三郎のけちー」
「うるふぇえ」


俺に興味を失った小平太は隣の長次にじゃれつきはじめた。
ようやく安心して飯が食える。
目の前の食事に集中する。
米、味噌、漬け物、魚……それが素通りするほどに、目に焼き付いた
違う!
慌てて顔を上げると、目の前に伊作の笑顔があった。
一瞬目が合い、伊作はしたり顔で頷くと皆の方へと視線を逃がした。ちくしょう。
自分で分かってるよ。俺の顔は、絶対赤い。
今まで心でくすぶっていた気持ちの殺し方を今更忘れてしまった。
気づけば、視線は幾度となくのことを追いかけている。
耳をそばだてて、食堂の中に漂うの声を必死になって聞き取ろうとしている。
今まで当たり前のように抱いていた気持ちが、こんな爆弾になるだなんて知らなかった。
……けど。
を突き放した理由を考えてみれば、この感情の渦はに出会った瞬間からあったんだ。
あまりにも素直な感情が、いくつも胸の内に沸き上がってくる。
くそう……かわいいな。































胸の内に生まれた言葉の一つでも、君に伝えられたら
何か変わるだろうか
たとえば、この両手や
この瞳
変われるのなら、変わりたい