濃紺の空に瞬く星を、当てもなくなぞっていた。
夜気に包まれた湯上りの体が、ゆっくりと冷めていくのに任せて、無意識に足を揺らしながら
明け放った戸口に陣取り、そのまま縁側から空を眺める。
寄りかかった柱は自分の体温が移り、まるで一体化してしまったかのように感じた。
なんで、俺はこんなに駄目なんだろう。
が大事な癖に、俺は自分の気持ちを抑えることすらできないのか。
ほんの僅か一緒にいた時間が、大きく自分を揺るがせていることに驚きもし、全く持って当たり前だとも思う。
どんなことがあったとしても自分なんかを差し置いたって、が大事なんだ。


「留三郎」


ずっと姿を見せていなかった伊作の強い口調が背中にぶつかった。
驚いた、いつの間に部屋に帰って来ていたんだろう。
俺が気付かないってことは、天井から入ってきたのか。


「自分で分かってるの?」
「……何がだ?」


怒気が含まれた声は、俺を突き刺すように飛んでくるが、一体全体なんで伊作がこんなに怒っているのか分からない。
肩越しに後ろを振り向くと、伊作の体は見えたが、灯りが乏しいせいでどんな顔をしているのか見えない。しかし、六年と言う付き合いの長さから辛うじて分かることがある。
伊作は、怒ってる。


「分かってないんだ。そうだよね。分からないからこんなことしてるんだもんね」
「伊作?」
「君は、最低だ」


吐き捨てるように言われた言葉。


ちゃん」


名前を聞いただけで、心臓が跳ね上がった。
それを知ってか、伊作は淡々と言葉を続ける。俺は、口もはさめずに首が痛くなるのをこらえていた。


「泣いてたよ。留さんの、せいで」
「……」
「でも、知ってるんだよね?自分が何してるか。だって、自分で自分のこと馬鹿だって分かってるんだもんね?」


泣いてた……、が?


「でも、私知ってるんだ。留さんのそれ、口先だけだよ」


のみ込んだ息が重く胸に沈む。


「留さんが思っている以上にちゃんは傷ついてるんだよ?」


微かに床を軋ませながら、伊作は俺の横にくると、すっと腰を下ろした。
星明かりがぼんやりと伊作の表情を照らし出した。


「知ってた?」


真直ぐにこちらを射抜く瞳には、もう初めの様な怒りは見てとれなかった。
しかし、俺は伊作を見ていられなくなって空へと視線を戻した。


「知らない…よね。だって、今日の留さんすごく機嫌よかったし」
「……」
ちゃんの傍に行ったから嬉しかったんでしょ?」
「…そう、だ」


咽喉が焼けつくようだ。
微かな溜息を左耳でとらえる。
体が急速に冷えていくのを感じていた。


「留さん……僕はね」
「……」
「自分の信念を曲げるなとも、それを見て君の考えが間違ってるだなんて断定はしない」
「……」
「けど、僕は君たちの友達なんだ」


星がなんて悲しげに瞬くんだろう。


「だから、二人が苦しむ姿なんて見たくない」
「伊作」
「自分勝手なわがままだって言われてもいい。僕は、僕の感情で君たちが悲しんだりしている姿を見たくない」


濁すことなく、真直ぐな言葉がシンシンと体に沁み込んでくる。


「だから、君の友達として助言をさせて?」


白く節を浮かび上がらせて震える拳に、伊作の温かい手が重ねられた。


「留さん、自分で間違ってるって……思ったなら今からだって遅くないんだよ」


伊作が何を言いたいのか、痛いほどわかるから俺は片手を伸ばした。
何かを掴めるかもしれないと思ったわけじゃない。
空へと伸ばし、微かに瞬く星を掴もうと思ったわけじゃない。
ただ、のこうする癖が俺にもうつっていただけだ。


「俺は……」
「ねえ、知ってた?ちゃんと留さん。二人ともよく似てるんだよ」





















自分の考えに目をつぶるのと、自分の気持ちに嘘をつくのと
どっちが辛いと問われたら、俺はきっと黙りこんでしまう
根底にあるのは、が好きだと言う気持ちだけなのに