十 濃紺の空に瞬く星を、当てもなくなぞっていた。 夜気に包まれた湯上りの体が、ゆっくりと冷めていくのに任せて、無意識に足を揺らしながら 明け放った戸口に陣取り、そのまま縁側から空を眺める。 寄りかかった柱は自分の体温が移り、まるで一体化してしまったかのように感じた。 なんで、俺はこんなに駄目なんだろう。 が大事な癖に、俺は自分の気持ちを抑えることすらできないのか。 ほんの僅か一緒にいた時間が、大きく自分を揺るがせていることに驚きもし、全く持って当たり前だとも思う。 どんなことがあったとしても自分なんかを差し置いたって、が大事なんだ。 「留三郎」 ずっと姿を見せていなかった伊作の強い口調が背中にぶつかった。 驚いた、いつの間に部屋に帰って来ていたんだろう。 俺が気付かないってことは、天井から入ってきたのか。 「自分で分かってるの?」 「……何がだ?」 怒気が含まれた声は、俺を突き刺すように飛んでくるが、一体全体なんで伊作がこんなに怒っているのか分からない。 肩越しに後ろを振り向くと、伊作の体は見えたが、灯りが乏しいせいでどんな顔をしているのか見えない。しかし、六年と言う付き合いの長さから辛うじて分かることがある。 伊作は、怒ってる。 「分かってないんだ。そうだよね。分からないからこんなことしてるんだもんね」 「伊作?」 「君は、最低だ」 吐き捨てるように言われた言葉。 「ちゃん」 名前を聞いただけで、心臓が跳ね上がった。 それを知ってか、伊作は淡々と言葉を続ける。俺は、口もはさめずに首が痛くなるのをこらえていた。 「泣いてたよ。留さんの、せいで」 「……」 「でも、知ってるんだよね?自分が何してるか。だって、自分で自分のこと馬鹿だって分かってるんだもんね?」 泣いてた……、が? 「でも、私知ってるんだ。留さんのそれ、口先だけだよ」 のみ込んだ息が重く胸に沈む。 「留さんが思っている以上にちゃんは傷ついてるんだよ?」 微かに床を軋ませながら、伊作は俺の横にくると、すっと腰を下ろした。 星明かりがぼんやりと伊作の表情を照らし出した。 「知ってた?」 真直ぐにこちらを射抜く瞳には、もう初めの様な怒りは見てとれなかった。 しかし、俺は伊作を見ていられなくなって空へと視線を戻した。 「知らない…よね。だって、今日の留さんすごく機嫌よかったし」 「……」 「ちゃんの傍に行ったから嬉しかったんでしょ?」 「…そう、だ」 咽喉が焼けつくようだ。 微かな溜息を左耳でとらえる。 体が急速に冷えていくのを感じていた。 「留さん……僕はね」 「……」 「自分の信念を曲げるなとも、それを見て君の考えが間違ってるだなんて断定はしない」 「……」 「けど、僕は君たちの友達なんだ」 星がなんて悲しげに瞬くんだろう。 「だから、二人が苦しむ姿なんて見たくない」 「伊作」 「自分勝手なわがままだって言われてもいい。僕は、僕の感情で君たちが悲しんだりしている姿を見たくない」 濁すことなく、真直ぐな言葉がシンシンと体に沁み込んでくる。 「だから、君の友達として助言をさせて?」 白く節を浮かび上がらせて震える拳に、伊作の温かい手が重ねられた。 「留さん、自分で間違ってるって……思ったなら今からだって遅くないんだよ」 伊作が何を言いたいのか、痛いほどわかるから俺は片手を伸ばした。 何かを掴めるかもしれないと思ったわけじゃない。 空へと伸ばし、微かに瞬く星を掴もうと思ったわけじゃない。 ただ、のこうする癖が俺にもうつっていただけだ。 「俺は……」 「ねえ、知ってた?ちゃんと留さん。二人ともよく似てるんだよ」 自分の考えに目をつぶるのと、自分の気持ちに嘘をつくのと どっちが辛いと問われたら、俺はきっと黙りこんでしまう 根底にあるのは、が好きだと言う気持ちだけなのに 続 |