泣いていた。
思いだすのは始末が悪いことに、留のことばかりだ。
ここは、留三郎の部屋だから思いだすなという方が無理。
泣いても、泣いても、やっぱり留三郎の言葉を覆すことが出来ない。
だけど、だから私はこうして泣いてしまうんだ。


「うう…とめぇ……」


しとしとと、次から次へと降りそそぐ塩辛い水のせいで、図書室の本はあっという間にぐしょぐしょになってきた。


「あー…ヤダ!馬鹿!留三郎のば、ばかぁ」


そんな風にしていても、いつまで経っても私は立ちあがることが出来ない。
この部屋の中にいる限り、留三郎の匂いがいつものように私を抱きしめてくれるから出ていけない。
好きで、好きで、しょうがないって何度も行ってくれた唇は、色も変えずに別れを告げてきた。
どうして、私は留三郎の心が離れていくのにも気づかずに、のぼせきっていた?
一番そばで見ていたと思っていた、愛しいあの人は、私の知らない人を見ているのだろうか。
考えは、どんどん悪い方向に走って行き、しまいには私から留三郎を取り上げてしまった誰かに嫉妬した。


「私………は、大好きだよ……」


ばたりと、音を立てて畳に涙が落ちた。
やけに大きい音だった。
丁度その時、戸が開いた。
戻ってきてくれた、やっぱりさっきのは性質が悪すぎる冗談だったんだと、無理やり言い聞かせてそちらを振り返ってみると、驚き目をいっぱいに見開いた伊作が立っているだけだった。


……ちゃん?」
「う……い、いさくぅ…」
「ど、どうしたの!?留三郎呼んでこようか!?」
「……うああああああああああああん!!!!」


他の人から言われる「留三郎」という言葉だけで、一気に涙腺は崩壊を迎えた。
先ほどとは、比べ物にならないくらいに涙がどんどん零れてくる。
このまま、なんで泣いていたか分からなくなってしまいたい。


ちゃん!」


慌てて近付いてくる伊作は、心配そうに私のそばに駆け寄ると、困ったように眉根を寄せてしまった。


「いさく……わ、私、留にふられちゃった…」
「え」
「も、もう……私とは別れたい……別れ…わかれうあああああん!!」
「そんな」
「わ、私なんかしちゃったかな?留、他に好きな人出来ちゃったのかな?」


しゃくりあげながら、途切れ途切れな言葉も伊作は拾い上げて聞いてくれる。


「嘘だ……留、ちゃんのことあんなに好きだって」
「私だって好きだって思ってた!」
「そ、そうだよね」


ああ、優しい伊作を困らせてしまってると分かっているが、勢いよく回りだしてしまった歯車が止まらない。
ぎりぎりと不快な音を立てて回る。


「どうして!?私たち、上手く行ってたもん!」
「うん、うん」
「一緒にご飯食べて、一緒にお昼寝して、一緒に町に行って、デートして、ペア組んで、キスして……と、めぇ」
「わわわ、ほら、涙拭こう?」


やけにごわごわした紙で頬を拭われて、それがトイレットペーパーだとも気付いたがもう、どうでもよかった。
私の頭の中を占領しているのは、留三郎ただ一人なんだ。
私は、そのまま、日が暮れてしまうのが先か、私の体力が尽きるのが先かという勢いで泣きつづけ、伊作に相談した。











次の日、鏡の中の私はこれほどでもかってくらいに目が腫れていた。