遠いあのこへ戻れたら


































ただ、時間いっぱいまで「日常」でいたかった。
























に触れられるとき。
自分が自分みたいじゃなく感じるのだ。
何でもうまくいく気がするし、どんなことにだって耐えられる気がする。
だから、がちゃんと私のことを見てくれるだけで、それだけでいい。
誰かに何を言われても、みんなにどんなことを言われていても本当に気にならない。
私が気になるのは、のことばっかりなのだ。


「よぉ〜し!今日はこれで委員会を終わりにする!!!」
「「「ありがとうございました〜〜〜」」」


私を含め、皆ぐったりしていた。
今日の七松先輩はやたらと張り切って、裏々々山まで行ったり戻ったり行ったり戻ってきたりのマラソンを私がいいと言うまでやるぞ!と笑顔で言ってきて、私たちを震え上がらせた。
結局、本当に延々とどれくらい走ったのかわからなくなるまで走らされた。
私たちは、そのままその場に倒れ込んだ。
もう、土がひやりと冷たいのが心地いい。
横目で、下級生たちがひょいひょいと七松先輩に担がれるのを見ていた。


「ん?滝、今日は?」
「きっと……そのうち来るでしょう……こ、この学園一美しい私と一緒にいたくて」
「………そっか」


な、んで。
一瞬、先輩の表情をよぎった「それ」。
今まで先輩についてきたが一度も見たことのない顔。
なんだ?
なんなんだ?
分からない。
ただ、私にはとても不利なことが起きるんじゃないかとばかり思った。
、いつもなら委員会の終わる前から待っててくれるだろう?
なあ、早く私をいつもみたいに迎えに来てくれ。
でないと、このまま地面と同化して、のことばかり考えてしまうだろ。
早く。
ぽつんと、取り残された私は地に伏せたまま。
このまま、泣いてやろうかと思ったとき。


「たーき」


ぽん、と私の背に触れた手。


「何やってんの?」
「……来るのが遅い」
「だって、私滝のお守じゃないもん」
「……早く来い」
「なに?滝拗ねてるの?」
「う、うるさい!」


くすくす笑っているのその声に、嬉しくてたまらなくなるのが恥ずかしくて、思わず声を荒げてしまう。
だけど、はそんな私にすら笑顔を向けてぼろぼろになった私の体に肩を貸してくれた。


「ほら、行こう?」
「ふ、ふん!私は一人でも歩けるんだからな!」
「分かってるってば」


よいしょと、掛声をかけて私の体を支えてくれる
この時間がとても好きで、体育委員会でもよかったって思える瞬間だった。


「なぁ、
「ん?なあに?」
「その、だな……」
「うん」


間近でこちらを見上げてくるの顔を見て瞬間、それまで思っていたことなんてどうでもよくなった。


「なんでもない」
「変な滝」


七松先輩のことなんて聞かなくったっていい。
私の一番そばにいるのがだ。
が笑ってくれるのが嬉しくて、もう他のことなんて気にせずにぎゅっとの体を引き寄せた。


「きっと、明日も晴れるぞ!!」
「え〜、分からないじゃない」
「この私が言うんだぞ!絶対晴れる!」
「じゃあ、晴れなかったら何かしてもらおうかな〜」
、私のことを信じろ!絶対に晴れる!」


そんな意味のない自信だって、と一緒だから生まれてくるんだ。
、それでも好きだと言う勇気が私にはない。
だから、もう少しだけ今まで通りこうしていてくれ。



「ん〜?」


普通のやりとりさえ、と一緒なら特別なんだ。


「今度、一緒に町に行くぞ」
「……」


頬笑みを肯定だと受け取って、一人舞い上がっていた。

















































お願いだから、私にかまわないで。


























!」


荒々しく、私の一人部屋に入ってきたのは食満先輩だった。
私がこの部屋に移ったこと、みんな知っていたのかな?


「な、なんですか食満先輩?」
「お前!!」


突然詰め寄られて、胸倉を掴まれた。
私、何かしたっけ?食満先輩何をこんなに怒ってるの?
あまりに唐突すぎて、私は混乱していた。
しかし、次に先輩の言った言葉で理解できた。


「お前!死ぬ気だな!!」
「………」


どうして。
はっきり言うの?
やめて。


「違いますよ……死ぬわけじゃない、です」
「じゃあ、なんだ!言ってみろよ!」


言えるわけなかった。
だって、私だって知ってるから。
死ぬことぐらい。
でも、でもね。
食満先輩。


「私、みんなを守りたいんです」


私、笑うから。
ねえ、先輩。
そんなに辛そうな顔をしないで。


「平凡で、何も取りえがない私にできるのはこれくらいだから」
「……そんなことない」


やっと、絞り出すように出た食満先輩の声はかすれていた。
両手を離した先輩は、その場にうずくまってしまった。


「どうして、。自分を投げ出すようなことするんだよ」
「……」
「どうしてだ。


そんな悲痛な叫びを聞いても、私にはどうしようもできなかった。
そう、決定された運命はもはや打ち崩すことなど不可能なのだから。


「それでも先輩」


思い出す。
滝のこと。
ああ、今日は小平太先輩がいたからなかなか出ていけなかった。
そうしたら、滝ってば拗ねちゃって。
一緒に、町に……いきたかったな。
そして、目の前の食満先輩。
なんだかんだと、世話焼きの先輩は私のこともよく目にかけてくれて。
たくさん笑顔をもらった。


「私、不思議と後悔はしていないんです」

「だって、」


先輩、私この学園が好きなんです。


「ここには、みんながいるじゃないですか」
























本当に偶然。
学園長先生の部屋の前を通った時に先生たちの話す声を聞いてしまったんだ。
飛び交う単語。


  城 犠牲 学園 安泰 辛い しょうがない


結びつけるのは簡単だった。
あいつは昔からそうだったから。
すぐに自分が泣くのを我慢して、泣いているやつの背をさすってやる。
本当は、一番に泣きたくて仕方がないのに隠すんだ。
一瞬で、頭に血が上った。
その足での部屋に行くと、誰もいない。
同室のくのたまに詰め寄ると、ようやくがどこにいるか白状した。
襖を開けると、部屋の中で正座している
思わず、その胸倉を掴んでしまった。


なのに、
どうしてお前は笑うんだよ。
みんながいたって、お前がいない。
そんなの意味がないじゃないか。


、俺は、許さないからな」


そんなことを言っても、どうすることもできない。
なんて無力なんだ俺は。


「食満先輩、誰にも言わないでください……」


伏せられた目に、胸がいっぱいになった。
くやしかった。
返事もせずに、また部屋から飛び出した。
どうしたらいいのか、答えも見つけられないまま、がむしゃらに走った。



















































迷走