二、もらったもの伝えたいもの



















何かを諦めた時に強くなれますか?
そうならば、私は諦めます。
だから、強さをください。
独りよがりな強さでも、いいから。
「逃げださない」強さをください。






















やけにサイズの大きい滝夜叉丸と出会った。


「おお!!!私と結婚しよう!」
「鉢屋先輩、大きさ違うんですぐ分かりますよ」
「何言ってる!この私こそが学園一優秀な滝夜叉丸だっ!!」
「あ〜、そこで滝ならもっとぐだぐだ感が出ますね」


ぱっと、滝の姿から雷蔵先輩の姿に変わる鉢屋先輩。


「え〜、は手厳しいよ。こんなに似てたんだから、私にもう少し甘い採点頂戴?」
「駄目ですよ。甘やかしてると、術に隙で来ますよ?」


甘やかせよ!と言いながら、鉢屋先輩は笑って私の頭をぐりぐり撫でまわす。
私もつられて笑って、鉢屋先輩の手をどかそうと躍起になった。


「に、してもだな」
「はい?」
、どったの?」


急に真面目な顔に戻って、鉢屋先輩は私の頬を親指の腹でこすった。
訳が分からず「?」が飛ぶ私を見て、苦笑する鉢屋三郎先輩。


「あのな〜、。涙の跡ついてるぞ?」
「え!?」


ああ、そんな、誰にも気づかれたくないし、詮索されたくないのに。


「分かった!失恋だな?」
「……じゃあ、そういうことにしておきます」


すぐからかおうとしてくる鉢屋先輩でよかった。
私は、安心して心から笑う。
先輩は両腕をがばっと開いて


「よし!私の胸で思う存分泣くといい!!あまよくば、そのまま押し倒してくれても構わない!」


こんな「普段の」やり取りが、不意に愛おしくなって。
そのまま先輩の腕の中に飛び込んでいった。
ぎゅうっと抱きつくと、雷蔵先輩とはやっぱり違う体つきの鉢屋先輩の体。
ぎこちなく、閉じられた鉢屋先輩の腕。


…熱でもあんのか?ん〜、でも体温は高くないなぁ」
「きまぐれですよ」
「私は、毎日気まぐれ起してもらって構わないぞ」


すりすりと頭に頬ずりされる感触。
絶対セクハラされるからいつもだったらこんなことしない。
だけど、一度だけこんなことしてみてもいいかな?って思ったの。


「絶対もう二度とないので、安心してくださいv」
「残念〜」


そんな口ぶりのくせに私たちはとりあえず、今の感触をお互いに味わっていた。
あったかいなぁ。


「先輩、細いし、硬いし、食べたらまずいですね」
は細いけど、柔らかいから食べ応え有りそう」
「食べごたえはあるけど、味はいまいちに決まってます」


体を離して、顔を見合せて笑いあった。


「でも、
「はい?」
「なんかあったら私、話聞くからな?」
「……大丈夫です」


優しい言葉をかけないで。
悲しくなるから。
心の中で必死に言った。


『先輩のこと、本当はとっても頼りにしてるんですよ?ありがとうございます』


それじゃあと、先輩に手を振っていつも通りを装って、逃げるように自室へと走った。




























遠くにがいると、気付いた時にすぐに分かった。
あ、なんか元気ないなって。
それに、今日のはなんか変だった。
覇気もないし、突っ込みが甘い。
なにより、自分から私に抱きついてくるだなんて。
なんだ?
女に目覚めたのか?
一瞬思ったが、先ほどのの笑顔を思い出して違うと、声が出る。
とってもいい笑顔だった。
嘘みたいな。
こんなに仲がいいって言うのに、肝心なことは何一つ口に出さなかった
いったいお前に何があったんだよ。
話してくれよ。
心配になるじゃないか。


「馬鹿


抱きしめた感触ばかりが、繰り返されて、相当自分はまいってるんだと感じた。
まあ、今度会ったときにでもたっぷり問い詰めてやろう。
気楽に考えて、今度は誰に変装しようか考え始めた。






























夜になると、一人っきりの部屋が堪えた。
寂しいのだ。
たった一人同室の子がいないだけで、こんなに部屋は広くなるものだろうか?
少し、悲しくなったが、昼間のことを思い出してほんのわずか元気が出てくる。
小平太先輩みたいに、元気をあげれる笑顔になりたい。
私は、ひとり頬を押さえて、うまく笑えているか笑顔をつくってみた。
だけど、鏡もない部屋では自分がどんな顔をしているのかわからなかった。


?」
「あ、はい!」


はたと、顔を上げてみると、ちょうど戸を土井先生が開けるところだった。
黒い衣に身を包んだ先生が戸口に立って私を見下ろす。


「ああ、よかった。起きていたか」
「なんですか?」
「ん……その、今からな?」
「はい?」
「禊ぎに、行くぞ」
「……はい」


そうか、忘れていた。
この体を清めるんだった。
立ち上がる私の手を引く土井先生。
わざと、私と目を合わせないようにしている。


「土井先生」
「なんだ?」
「先生、心配しなくても私大丈夫ですよ?」
……」


振り返った先生に、笑顔を見せる。


「大丈夫です、私、まだ生きてるもん」
「……そうだな。、お前は強い子だな」


昼間、鉢屋先輩にされたみたいに、土井先生も私の頭を撫でてくれる。


「それにほら!土井先生、忍者は時には仲間も見捨てるって!」
「それとこれとは話が違う!」
「あ……ご、ごめんなさい」
「いや、私こそ、」


言葉を詰まらせた後は、そのままお互いに何をしゃべっていいのかわからず黙って歩いた。
学園を出て、人知れぬ小さな滝に行って、私は月夜のもと禊ぎをした。
凍み入るような水に心地よさを感じて、この体の汚いもの全部が流れ出していけばいいと思った。
それこそが、禊ぎの意味なんでしょう?
でも、今日鉢屋先輩と触れ合ったあの「日常」のぬくもりを奪われてしまうような気がして、切なくなった。


、もういいぞ」
「あ、はい」


乾いた手拭いと、着物を手渡されて体についた水をぬぐった。


「土井先生、私、いつですか?」
「…すまない、私も分からないんだ」
「そうですか」
「戻ろうか?」
「はい」































の手を引きながら、私は自分のふがいなさを感じていた。
なのに、まだ子供のはずのこの子は眩しいくらいの笑顔を浮かべている。
無邪気なのか、ひたむきに辛さを隠しているのか。
ただ、こんなにか細い手を守ってやれない自分の弱さを呪った。


「土井先生」
「ん?」
「明日も、晴れるといいですね」


あんまりにも、日常すぎる話題で、あんまりにも、当たり前の笑顔で


私もつられてほほ笑んだ。





















































今日か明日か