常軌を逸した 私の中の食満留三郎という存在は、温かいという言葉がよく似合う。 後輩たちには、強く優しくかっこいい先輩。 同級生たちとは、互いに切磋琢磨し、時には年相応すぎるほどの馬鹿馬鹿しさを兼ね備えて大笑いしている。 そんな存在。 そんな、彼。 そんな…人。 今、現在、私の目の前で何かをしていらっしゃる食満留三郎。 放課後の誰もいない教室で、机の前に一人だけ正座して前屈み。 机ぎりぎりまで近付けられたその鼻先には桃色の頭巾。 ちなみに、たぶん私が探していたであろう、私の頭巾。 「…はっ、はぁ…、」 驚くことに、彼の荒い息の合間合間に聞こえてくるのは自分の名前。 耳を打つのはくちゅくちゅと、何やら卑猥な水音。 「んっ…くぅ…、」 私の名前を呼びながら、卑猥な言葉を口にした食満留三郎に驚いて、思わず掴んでいた戸を押してしまった。 当然のごとく、戸がガラリと音をたててしまった。 「ん?」 くるりと、こちらを振り返った食満。 見慣れた表情で、何の悪びれもなくにっと歯を見せて笑いかけてきた。 「なんだ、か」 「……」 「どうしたんだよ?こんな所に」 西日差し込む寂しげな教室には、まるで似合わない私たち。 私は硬直し、かたや食満はナニをしている所を私に見られているのに平然とこちらに近づいてくる。 「あ、あ、あ、あの、わ、わ、わたしの、ず」 「ああ、あれ…探してたのか?悪い、借りてた」 借りていた所じゃない。変態チックなおかずにされていた。 訂正する暇もなく、目の前に立ちはだかった食満が、戸にかかっていた私の手を取ると自分のイチモツへと導いた。 私の手の上から彼の手が硬くなった雄を握る。 「ん……」 「……」 上下する手。 ぐちゅぐちゅと先走りを伴いながら、手の中で滑る。 ただただ驚いてしまって、食満の手が動くままに私の手が彼のそれを擦る。 「あー…やっべ、やっぱり本物のが一番だな」 まるで小平太でも乗り移ったのか、小平太が物凄い天才になって食満に変装して彼の評判をガタ落ちにさせようとしているのか…。 いつの間にか、シュッシュッシュと手の動きが早くなっていることに気付いた。 「はっ、う……い、くぞ」 「え?え?えええ?」 びゅっと、宣言通りに白濁とした液が勢いよく飛び出した。 手が汚れるどころじゃない。 飛沫が顔付近まで飛んで来て、条件反射で避けたのに頬にまでくっついた。 特有の青臭さがふわりと香る。 「っ…………それ反則、えっろ」 「えろとか言われても……えーと」 「ん?」 なんだか、手の中でまた熱やら硬さやらを取り戻してきているモノを好い加減離したい。 私の中の食満像は一気に音をたてて崩れ去っていた。 まずは、どうやったらこの状況から逃げ出せるだろうか。 友人のイチモツをにぎっているという非日常すぎる状況……頑張れ自分、脳みそをフル活用しようよ。 「あ、そうだ」 「はい!?」 不意に、普通に名前を呼ばれ声が裏返ってしまった。 「好きだ」 「………」 「だから、今度はちゃんと中に入れたい」 「……」 「あ、口でもいいぜ!」 相変わらず、私のよく知っているいい人な笑みを浮かべている食満が、常軌を逸した発言をしていた。 「好きすぎて、もう我慢できない」 笑みの中、少し切羽つまった声を出す食満に、心の臓が早まっていくこの私の頭も常軌を逸しているに違いない。 見たこともない、彼になんでこんなに何も言えないんだ。 普通の反応ができない。 手の中で元気になっていく彼に、背筋がぞくりと震えたのもきっと何かの間違いだ。 終 |