朝日




























朝日が部屋の中に差し込むよりも早く、眼が覚めた。
体を起して、思い切り伸びをすると冷たいのに心地いい空気が体を満たす。
冷気に身体中に力が入るが、無理やり体の力を抜くと不思議と冷たさは体に馴染んでいく。


不思議な、予感がした。


突然やってくるこの、予感に胸がわくわくしてきて私はいてもたってもいられなくなった。
体の中で小さな芽が吹いて、一人でに成長していくような感覚。
布団の中からそっと抜け出して身支度もそこそこに部屋を飛び出した。
足の裏をぴたぴたと鳴らしながら廊下を行く。
さわさわと、肌の表面をなぞる様な気配を、あちらこちらから微かに感じる。
まだ薄暗い中、眼を覚ましているのは自分だけじゃないと思わせてくれるその感触が嬉しく思うのだが、かといって誰も見当たらないのは寂しかったりする。
寂しさが増すのは、声を出すのも憚れるような朝独特な静けさのせいなのかもしれない。


「うっし!」


そんな中、不意に飛び込んできた声。
つられたのか、寂しかったのか声を求めて軒先へ飛び出した。
上を仰ぎ、屋根の上へと目をやると、薄紫色の空の中にぽつりと誰か立っていた。
ほうほうと湯気が立ちそうなぐらい汗を流したせいなのか、髪を縛っていた紐を取り、その人は頭を振った。
ぴかりと、星とは違う光が宙に舞って消えた。


「とめ、さぶろう」
「んあ?」


口の中でだけ呟くような呼気みたいな声だったのに、しっかりと彼に届いていたらしい。
こちらを見下ろす食満留三郎。
首を軽くかしげて、眼を細めている。
明けに染まりつつある空の中に浮かぶ留三郎の姿は、私からはよく見えた。
彼の表情が、ぱっと明るくなり、歯を見せて笑みを作った。


「お、じゃん」


おはよー!と、声をかけられ、なぜだかどぎまぎしながらおはようと、返事を返した。


「何してんだこんな朝早くから」
「え、何にもしてない」
「なんだそりゃ、お前変わってんな」


微かに笑い声を上げた留三郎は、不意にこちらに手を伸ばしてきた。
意味が取れずに、じっと見つめていると苦笑しながら彼は手を振った。


「ほら、こっちこいよ」


慌てて柱のそばによると、上から留三郎の手が頭上に降りてきた。
自分よりも大きなその手を掴むと、しっかりと握り返してくれた。
留三郎の手を頼りに地面を蹴り、柱を蹴った。
思ったよりも強い力が体を引き上げ、ふわりと私の体も瓦の上に降りた。


「お、やっとの顔がよく見えた」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」


にっと笑い、軽く首を振ってから汗で首筋に張り付いていた髪をもう一度いつもの場所より、少し下で束ねなおした。
それから、じっとこちらを見つめてきた。
じわじわと、山の端から朝日が零れ落ちる。


「な、
「なに?」
「おはよ」


今日も、きっと青い空が広がる予感がした。
だから、嬉しくなってしまったんだ。


「さっきも聞いたよ?」
「ああ」
「変なの」
「お前もだろ?」
「そうかも」


予感は段々と確信に変わっていく。
眩しいぐらいの朝日が私たち二人をまとめて抱きすくめた。


「おはよ、留三郎」
























時間アンケート朝
一位 食満