誰よりも


























裸に剥いた腹の上に跨ると、混乱とそれでもなお興奮してしまっている食満が目を見開いてこちらを見上げている。
挑発するようにべろりと舌なめずりをすると、無防備な彼の喉元が上下した。





うわずった声で私を呼ぶ彼は、まるで生娘のようだ。
ああ、それとも期待に満ちあふれているのか。
どちらにせよ、私がすることはただ一つだけ。


「抵抗したければすれば?」
「……う」


つっと、人差し指で下から胸までたどると、眉をしかめて軽く唇を噛んだ。
私は、別に悪くない。
こういう状況にわざわざ陥ったのも、導いたのも自分自身の言葉だと思い知れ。


ってさ、授業とかでもそういうことシタことあんのか?』


男女の友達同士のごく自然な会話だったかもしれない。
本当に、その前いったい何をはなしていたかさえも思い出せないぐらいに、ありきたりなことを話していた。
しかし、完全に彼の言葉は私をえぐった。


『試してみる?』


いらだち混じりに言い返すと、「とかよー」と苦笑いしながら、男の子の中で一番人気のあの子の名前を口にしたのだ。
着物の下でぞわりと自分の嫌いな「私」が身震いしたときにはもう遅かった。


『うおっ!!』
『………』


脱がせるのが早いと、いらない言葉をもらったのはずいぶんと前のことだ。
私なんかよりも、長い時間をかけて鍛え上げているはずの食満はいともかんたんに倒れた。
食満が鍛え上げている間、私も別の技術を磨かされていたんだよ。
跨ったまま、体をぐっと彼の素肌に近づけた。
それだけで、いつもは微かに嗅ぎとっていたはずの食満の匂いが濃くなった。胸の隅々に行き渡り、私が吐き出す息にすらその匂いが紛れている気がする。


「留三郎」


間近で見つめる留三郎の顔は、なんだか見慣れない物だった。
困って泣き出しそうな、笑っているような不思議な顔。
ヒタリと、五指を留三郎の胸に這わせると、彼は身震いをした。
なんて留三郎の肌は暖かいんだろう。私の指はなんて冷たいんだろう。互いの違いをまざまざと見せつけられてるみたいだ。


「私たちはね、感情なんてなくったって抱けるんだよ」
「おま、」
「私たちがするのは、ただの情報収集。そのためなら、ただの雌になれる」


自分でも、ぞっとするような底冷えした声色だった。ずたずたに切り裂いてやったと思っていた、忌まわしい記憶が網膜にちらつくせいだ。
わかってる。愛情で繋がれないことなんて知ってる。
仕事が、課題が課せられれば、こなすだけ。
一般論は幻想だって理解しているから、今は邪魔しないで。
見えてくるのは、留三郎だけで、いい。
聞こえてくるのは、留三郎の吐息だけで、いい。
香ってくるのは、留三郎の匂いだけで、いい。

その留三郎の瞳が悲しそうに細められた。


「と、め?」



頬にふれた留三郎の指はまるで私の指のように冷たい。
初めて、その冷たさにふれられて自分の頬の暖かさに気付いた。


「お前は、どうしたいんだよ」
「え?」
「お前のことが、聞きたい」


訳が分からずに首を微かに捻ると、留三郎の親指の腹が目尻を擦った。


「……割り切れてるっていってる奴が、する顔じゃねぇよ」


ぐっと、下から引かれて口づけされた。
激しさよりも、穏やかな愛情をもった留三郎のキス。


「……ん、ふぁ」
、ごめん」
「とめ?」
「さっきの嘘。あの子よりも、お前を抱きたい」


いたずらっぽく笑って、もう一度口づけられた。










































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