よみあい



































一年の賑やかな声に囲まれてする修理はもう慣れたもので、まだ委員会で顔を合わせたばかりのころの様なぎこちなさはない。あっという間に、創り上げられた用具委員という空気。
この、空気が好きだ。


「先輩!先輩〜、これはどうやってやるんですかぁ?」
「あ、ちょっと待ってね?今平太の奴みてからやるから」
「はーい!じゃあ、ナメちゃんたちと待ってまーす!」


ほわほわした喜三太の髪の毛を撫でると、ずるいずるいと、しんべえも飛びついてくる。
二人とも一緒にしてぎゅうっと抱きしめると、おずおずと、腰に平太がしがみついてきて、腰に顔をうずめた。
可愛い…。かわいすぎる。


「なんだよー!みんな甘えん坊だな!」
先輩〜、ちゃんとやって下さいよぉ!」
「はいはい、分かってますって。だから、作兵衛もこっちおいでよー!」
「お、俺はいいですよ!」


三人をくっつけたまま、慌てて逃げようとする作兵衛を巻き込んで押しつぶす。
今度は四人でごろごろぎゅうぎゅう。
顔を真っ赤にさせて恥ずかしがる作兵衛を思いきり抱きしめると、周りから一年生たちが私たちを抱きしめてくる。


「肉団子みたいだね!」
「先輩〜、肉団子食べたいですー」
「しんべえ!涎!涎ふけよ!」
「はにゃー、僕は笹団子がいいなぁ」
「…ぼ、ぼくも」


じゃあ、みんなで食べに行っちゃおうか?と言った所で、ふっと影が落ちた。
影のもとをたどると、見慣れた三白眼が飛び込んできた。


「どうしたの?留三郎」
「………」
「ヒッ!!!」


腕の中で硬直してしまった作兵衛に気付かないふりをしたまま、にこにこと笑顔を作る。
つりあがった目尻が怖いよ、留?


「ぷ、あはは!その唇、あひるさんみたいだよ?」


なにを拗ねているんだか、付き出た唇が不機嫌を訴えてくる。


「食満先輩あひるさんなのー?」
「そうだよ、喜三太。あひるさんなのー」


きゃらきゃらと笑う声が心地よい。





やっとこさ絞り出された食満の声にわざと気付かないふり。


「裏の裏。そのまた裏を読むのが忍者だ」


そうして、意味深な言葉を残してくるりと踵を返してしまった留三郎。
なんだ。詰まらないの。
































部屋に戻ると、隅っこに丸くなった背中を見つけた。
身じろぎひとつせず、じっとしている背中。
わざと音を立てて近付いて行き、後れ毛を指先に絡め取る。
くすぐったいのか、少しだけ肩を揺らした。


「拗ねてるんでしょ?留三郎」
「拗ねてねーよ」
「じゃあ、なに?」
「俺の言ったこと、聞いてたよな?」
「聞いてたよ」


裏の裏を読むんでしょ?と、言った所で、世界がまさに反転した。
裏返ってしまった、
天を仰いで、背に板の目を背負った留三郎を見上げた。


「俺があいつらに嫉妬すると思ったか?」


余裕たっぷりの留三郎が、顔をくしゃくしゃにして笑う。
くつくつと喉の鳴る音が、なんだか気恥ずかしさをあおる。


「嫉妬するわけねーだろ」
「あ」
「だってよ、誰よりも俺自身が自分で、俺が一番だって分かってんだよ」


ちゅっと、わざとリップ音を立てて留三郎の唇が顔に降りそそぐ。
鼻先や、額や、頬。瞼の上にも容赦なく降りそそぐキスの雨。
甘さよりもくすぐったさが先立って、思わず声が漏れる。


「ふ、やだ。留、くすぐったい!」
「やめねぇ」


反撃とばかりに、留の襟元を捕まえて思いきり引っ張った。
咄嗟のことに倒れこんでくる留三郎と反転する自分の体。
ぐるりと、また裏返った。


「裏の裏。更に裏を読んだ結果」
「ん」


自分からする口付けなんてあまりないから、死ぬほどどきりどきりと心臓が悲鳴を上げる。
ざまあみろ。
それよりも、真赤になった留三郎を見降ろしてなんだか優越感。
そのまま留三郎の上に倒れ込むと、男の腕で抱きしめられた。
部屋の中をごろごろと声を上げてじゃれ合う。
世界がぐるぐると回る合間合間に口付けをかわして、互いの温度に浸り合う。


「本当は寂しかったんでしょ?」
「お前がな」