私だけの特権です 「なあ」 「なによ」 二人とも、ただひたすら目の前におかれた食事にまっしぐら。 黙々と端を動かしている途中だった。 がつがつとまで、音を立てそうなほどの見事な食いっぷりに、こいつ女だったよな?と、一瞬疑問に思ってしまうほどだったが、別にそういうのは嫌いじゃないから気にならない。 ごくりと、口の中の物を咀嚼して、飲み込む。 それから、また箸で芋の煮つけをつまみあげた。 「お前さ、食満のどこが好きなんだよ」 「は?」 その瞬間、の箸が止まり視線が痛いほど向けられているのも気付いていた。 そりゃそうだ。 俺たちは、そんな話を今までしたことがなかった。 だが、な。 「どこが好きなんだよ」 「……文次郎、熱でもあるの?」 俺にはどうしてが食満なんかと付き合ってんのか分かりもしねぇ。 だから、気になってしまいこうして聞いたわけだ。 さあ、答えろとの方を見てやる。 すると、ぽかんとした表情をしていたは、俺のことを見ると急に笑い出した。 「なになに?急にどうしちゃったの!?文次郎ったら、私のこと好きになっちゃった?」 「ば、バカタレ!!そんなことあるか!」 ケラケラ笑いながらはごくりと茶を飲み干すと、弓なりに目を細めた。 「そうねー…文次郎がそんなに私とお留談義をしたかったなんて盲点だったわ」 「は?」 「乙女談義?留三郎談義?まあ、ともかく…留の好きな所、ねー……」 なんだか、引っ掛かる言い方だった気がしたが、俺は残っていた米を一粒のこらず平らげて、に倣って茶をすすりながらその答えを待っていた。 全く持って、あいつがどうしてもてるのか、俺には分からん。 「まずね、留三郎は果てしなく優しいのよ」 「は?……食満留三郎が、か?」 「そう!優しいの。ほら、委員会の時なんて保父さんみたいで後輩の面倒すごく見てるのみればわかるでしょ?あんなに手のかかる子たちをちゃーんと面倒見れているのも、留が優しいからだろうなぁ」 「……俺だって、それぐらい出来るわ」 「ん、まあね。文次郎だって委員長だもんねー」 「お前、俺のこと馬鹿にしてないか?」 じろりと、睨んでやれば悪戯っぽく笑いながらごめんごめんと、繰り返す。 他には?と、先を促してやればまた軽やかにこいつの唇は言葉を紡ぎ出す。 よくもまあ、そんなに話すことがあるなと思うほどに、ぺらぺらと食満のいい所をってのを話しつづけていく。 「だがよ、それはあくまでも食満のいい所で、お前があいつを好きな所じゃないだろう?」 「ああ、そうか。忘れてた。だってさ、留三郎っていい所ばっかりなんだもん。あ、ちゃんと好きな所だってあるよ?」 「だから、俺はさいっしょからそれを教えろって言ってんだろ!」 「まあまあ、今から教えるから」 びしっと、俺に向けては箸を突き付けた。 「笑顔!」 「………は?」 「しかも!私にだけの特別仕様!」 にぃー。という音が似合うほどに、まるで猫のように微笑む。 あいつが笑ってるのなんてしょっちゅうだろ。 何言ってんだこいつ。 特別仕様?意味がわからねぇ。 「あ!文次郎。ほら、見てなさい……とめ〜!」 俺の後方へと呼びかけたに釣られて、俺もそちらへと視線をやった。 そこは、食堂へと入ってきた食満の姿。 いつもの釣り目釣り眉の、特に何の変哲もない顔。 「留!とめー!こっちこっち!さんはこっちでーす!」 「…!!」 その瞬間……思わず、開いた口が塞がらなかった。 今まで六年間見たこともないような、笑顔を浮かべて手を振る食満留三郎がそこにいた。 俺には全く気付いていない。 「ね?私だけの特権。私の、大好きな留の笑顔」 勝ち誇ったように俺の頭を後ろから小突いたは、留三郎の方へと走って行った。 もちろん、の顔も見たことのない笑顔。 いつも俺に見せる、悪戯っぽい笑顔や皮肉な笑みや勝ち誇った笑みなんかじゃなく、女の笑顔だった。 この俺が、その横顔で思わずどきりとしたほどだった。 「留。私、留のことだ―い好き!」 「お、な、なんだよ。いきなり」 「んふふー」 食堂の真ん中で、ばか丸出しの二人はぎゅうぎゅうと互いを抱きしめあっていた。 終 笑顔って、すごく変わりますよね。 好きな人へは特別な笑顔が自然と出てしまう。 それは、いつだって全力全開です。 |