お人好し
つないでいた手から力が抜ける。
まさかと思いだし始めたのはそれからだった。
浮かれていた俺は、愚かにも自分の想いが通じた瞬間にの想いも全て俺へと向いたものだと信じ切っていた。
いや、確かにの気持ちも俺に向いている。
の一挙一動に愛情を感じる。
初めて唇を触れ合わせた時、が顔を真っ赤にさせて嬉しそうにはにかんだ姿に嘘はなかった。
思わず抱き締めてしまった時に、遠慮がちに俺の背に回されたの腕に愛情を感じた。
憐憫とかじゃ決してない。
「……行くぞ」
「え?あ、うん」
緩んだ隙間を埋めるように、俺は自分の手に力を込めての手を握り締める。
逃がしたくない。
、お前とずっと一緒にいたいんだよ。
「なぁ、」
「なぁに?留」
誰もいない場所にを引き込み壁に彼女を押しつけて、啄むような口付けを繰り返す。
ちゅ……
繰り返す度に味わう甘い刺激。
やっぱり俺はがどうしようもなく好きなんだ。
辛くなるくらいに好きなんだ。
「留、どうした、の」
ちゅう
口付けの合間にくすぐったいと笑いながら、は問い掛ける。
もう、俺はへの想いを堪え切れず、額や頬、瞼にもキスの雨を降らしていた。
「ね、留」
甘えたの声に嘘はないんだ。
嘘は…ない。
「なぁ、」
「なぁに?」
「……」
わざと、の顔を見ないですむように強く抱き締めた。
「お前……文次郎のこと、好きなんだろう?」
ぴくりと震えるの肩。
その動作は初めての中に入った時の動作を思い出させ、また愛しさを募らせた。
俺、が好きなんだ。
「文次郎のこと……好きなんだろう?」
なんて残酷な言葉を繰り返す俺。
「と、め」
「俺は……が好きだ」
「わ、私だって留が好き」
まるで悲痛な叫び。
一番欲しい言葉に嘘はないけれど
「でも、は文次郎の方が……好きなんだろう」
こんなに無言が雄弁だとは知らなかった。
「、愛してる」
「とめ」
だけど、俺はには愛されないんだろう。
は俺の後ろを見ていたんだ。
全く似てないのによく似た俺たち。
「俺のこと、利用するな」
「わた、し」
「俺のこと、頼ってくれよ」
選ぶのはお前だ。
「」
なんてお人好しな俺。
お前の幸せを一番にいつだって考えてしまうんだ!
自分のことなんかよりも、が好きだから。
「、俺はどんなことがあってもお前を愛してる」
がんじがらめなのはと俺、どっちだ。
願わくば、同じ糸に搦めとられたいと思うだけだった。
「とめ、私」
「」
抱きしめる手に力を込めた。
終
orz
色々なものに負けた気がする。
男前すぎる…。
|