不実
じんっと、頬が熱い。
そして、痛みが遅れてやってきた。
「……っ、あ、あんたが!あんたが悪いんだから!!」
「……」
ぼうっと、床を眺めていた。
ああ、傷ついているのは私だけじゃない。
だけど……これは、堪えた。
ただ朗々と月の光が私たちの顔を濡らしている。
そして、耳に届くのは無情な虫の声だけ。
ああ、なんて寒くなったんだろう。
肌が、粟立つ。
胸倉を掴まれて思い切り突き飛ばされたのにも、倒れて尻もちをついてから気がついた。
ぼうっと、顔をあげた。
「も、来ないでっ!!あんたなんか、仙蔵は見てないんだから!早く!どっか行ってよ!!」
なんて、辛そうに泣く子だろう。
なんて、かわいい子だろう。
泣かないで。
ごめんなさい。
きっと、私が悪いから。
「ごめんね」
それは、どちらに言った言葉だろう。
仙蔵に?それともこの子に?はたまた、私自身に?
分からない。
のろのろと立ち上がって、私は踵を返した。
背中に襖があいて閉まる音。
そこで、ようやく涙が出た。
のろのろと歩いていた。
とめどなく頬を伝う涙だけが温かった。
ねえ、仙蔵。
部屋の中にいたんでしょ?
私が大切なら、追いかけてきてよ。
でないと、手遅れになるから。
「うっ……ばっか、みたい」
涙でぐずぐずになった自嘲の笑い。
分かってる。
追いかけてくるはずがないって。
ぐらりと足もとが揺れる。
それでもは背中で仙蔵の声を探していた。
「」
嘘だと、分かっていても、振り向いてしまう自分が呪わしい。
「や、やめて、よ……なんでそんなことするの!!!」
最早悲痛な叫びだった。
後ろにいたのは一番欲しい形。
だけど、それは仙蔵じゃない。
「三郎!どうしてそんなことするの!?や、やめ…てよぉ」
力なく崩れ落ちた私。
涙が、次から次へととめどなくあふれてくる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
どうして!どうして!?
なんでそんなことするの!?
「」
どうして仙蔵の声を出すの!?
やめて……お願いだから。
「」
同じ声で私の名前を呼ばないで。
同じ腕で私を抱きとめないで。
「や、やだ、よ……さぶろぉ」
「、好きだ」
嫌なのに、体は言うことを聞いてくれない。
お願い
「」
失いたくないのなら、今すぐ追いかけて
終
短文。
誰もかれもが愛し愛されすぎた。
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