笑う太陽 うだるような暑さすら、もはや心地いのかもしれないと、茹った脳みそで考えていた矢先に頭を後ろからはたかれた。 「あっついんだよー……ばかたれー」 「いて」 振り向くと、汗を滴らせたがいた。 久々の、喚くような蝉の鳴き声以外の音だった。 疲れ切った表情で、力なく唇の端を上げるとゆっくりと俺を抜かしていった。 しかし、その速さに叶うこともできないくらいに俺自身も疲弊していた。 引きずるような両足が、後ろに細い筋を残している。 炎天下の中、鬼マラソンをギンギンにやると行って部屋を飛び出してきた俺の後を、大分経ってから、しぶしぶついてきてくれたとは走っている量が違うのだから当たり前か。 いや、それでも俺は誰だ? 鬼の会計委員長だ。 それ以前に、潮江文次郎、一男児だ! 不思議と、足に力も入ってくる。 じりじりと先を行くを詰めていくと、水分を失って白っぽくなった地面の中にの姿が浮き立つ。 自然と集中してその背中を見つめてしまう。 すっかり汗を吸った布は、が動くたびに微妙なしわを寄せる。 ちらちらと揺れる髪も、陽気とは打って変わって濡れそぼっていた。 「もんじ」 後ろを不意に振り返って俺の名前を乾いた声で呼ぶと、俺がついてきていることに安心したのか、はにかんだような笑みを浮かべた。 まずいと感じた瞬間には、うなじにぺたりと張り付いた幾筋かの髪と、しっとりと汗ばむ白い肌で頭の中が埋め尽くされた。 少し離れているのに、その首筋から匂い立つの匂いすら感じ取れる気がする。 咽喉が、不覚にもごくりとなる。 反動で、喘ぐように口をあけて吐き出す。慎重に、ゆっくりと。 でないと、叫び出しそうだ。 ぐっと、息をひとつ呑みこみ、速度を一気に上げる。 「え?」 「」 がっとの腕をつかみ、腰に腕を回し、体の中のどこに残っていたのか分からないくらいの力を発揮した。 白い地面から逃げ、木々や繁みが作る濃い影の中にもぐりこんだ。 太陽の熱から隠れるだけで、体の表面がじりじりとした痛みから解放される。 しかし、別個の痛みが俺の中ではすでに生まれていた。 「も、んじ、なにすんの」 「も、だめだ。たまんない」 「え?」 ひやりと土の匂いのする柔らかい地面の上にを押しつけて、思いきり口を吸う。 ちゅるりと、音をたてて枯渇し合った互いの喉を互いの想いで潤すかのように舌を絡めた。 戸惑うは、かわいい。 鼻から抜けるような音をたてて、か弱い力でやめろと胸を押してくる。 その弱い抵抗は決していやがってはいない証明だと常々感じる。そして、歓びを噛みしめてしまう。 音をたて、唾液の糸を引きながら唇を離すと赤い顔をしたがじっとこちらを睨んでくる。 「急に、なんで」 「お前がいけない」 煽るから。 ぐっと、下半身を押しつけるとじりじりと太陽よりも身を焦がすへの想いが、の柔らかい太ももを味わう。 ああ、こんなもんじゃ足りねーんだよ。 既に手の中で形を変える胸の柔らかさが触角を支配し、みるみる頬を染め、目を細めるの表情に視覚がやられ、なめとったの首筋の汗に味覚が満たされ、途切れるような許すような微かな吐息に聴覚を愛撫され、身体中から匂いたつのいやらしいくせに涼やかな体臭に体内を余すところなく満たされた。 だが、足りない。 足りない。 何よりも、俺が満たされるのではなく、を俺が充たして味わいつくしてやりたい。 ああ、これが愛ってやつだ。 恋に焦がれて愛に焼かれてもいい。 「あッ……はぁ……んっっ」 「射れ、るぞ」 史上最大級の快感に身体中が痺れた。 終 |