柔らかい夜に なんの音もしない夜なんて、ない。 どこかしこから、さざめくように何かしらの吐息やら気配やらが神経の端を擦って逃げていく。 それが、当たり前な夜。 何かに当てられたのか、俺はじっと寝ころんだまま天井を見つめていた。 堪えようのない、歓喜の様なものがこの体を走りぬけて叫びを上げそうになる。 今夜が……満月だからだろうか。 まさか、小平太じゃあるまいし。 口の端に思わず笑みが浮かぶ。 晩飯の後に、長次と小平太から今夜裏裏山まで行かないかと誘われたことを思い出す。 何かと言いわけを付けて、断る時に微塵も悪いと思わない自分がいた。 こんなこと……今までなかった。 しかし、それが楽しく新鮮な気持ちだと気付いているからこそ、なぜだか浮き立つのだ。 じりじりと、夜が歩みを進める。 気付けば月の光が床の上を自在に滑っていた。 今夜は仙蔵も、後輩たちと作法室に泊まり込むと言っていた。 ああ見えて、後輩たちの願いには甘い。 どうせ、一緒に寝たいだの言われたのだろう。それを、わざわざ託けて…… 「文次郎……?」 「……あ、ああ」 部屋の外からの呼び掛けに体が、びくりと反応する。 体の表面がざわりざわりと震えた。 の声だった。 来ることなど、分かりきっていたのに、それでも体が喜んでいる。 慌てて飛び起きて、傍らに準備しておいた夜着やら手ぬぐいやらをひっつかんで戸を開けた。 「……」 「……」 髪を下ろしたの姿に、言葉がつまる。 「……その、い、いこっか?」 「お、おう」 二人肩を並べて、ぺたぺたと廊下に足音をたてながら歩いた。 忍者にあるまじき、行為すらと二人でやるとただ楽しいとしか感じられない。 本来ならば、あるまじき想いなのに。俺は今、おかしい。 思わず、足を止めると不思議そうにがこちらを振り返った。 「……バカタレ。こっちみんな」 くうっと弧を描くの唇の端に、めまいを覚えてしまう。 思わず、眉間の間を小突くとはなぜだか嬉しそうにそこを押さえて笑った。 そのあと、の足音だけがぺたぺたと廊下に響いた。 そして、俺の足音の代わりに俺の指と指先が絡んで揺れた。 あれほど、ざわざわと感じていた何かしらの気配よりも、自分の鼓動の音やの声に気を取られてもう、二人のことしか感じられなかった。 血潮が熱く熱され始めているからか。 「………」 「どした」 「別に?」 湯殿は、暗黙の了解で二人きりで使うつもりだった。 先生たちにばれなければ、何の問題もないし、このことについて上級生間では持ちつ持たれつ、だ。 脱衣所に入るのを躊躇して、みるみる紅くなっていくが可愛くて、可愛くて我慢がきかなくなる。 ぐっと、腕を引いて中に引き入れた。 そして、籠を前に俺の方を気にしながらも帯に手をかける。 「あっち、向いててよ」 「ああ」 自分自身はとっとと身につけていたものを脱ぎ去ってしまい、後ろのを振り返った。 丁度、肩を露わにしたところだった。 白く、すべすべとした両肩。 するりと、衣擦れの音を伴って着物が落ちるその瞬間、背後から抱きすくめた。 「ひっ……」 「待ってるからな」 温かく柔らかな感触を腕に残したまま、を置いて先に中へと入る。 後ろでは、がへたりと床の上に座り込んでいた。 お前相手だと、我慢が、利かなくなる。 湯につかりながら待っていると、が手ぬぐいで必死に隠しながら中に入ってきた。 その姿が可愛く、湯を掬ってかけると目をつり上げて怒った。 「も、文次郎!やめてよ!この、ば、バカタレ!!」 「はっはっはっは」 「さわやかに笑っても、やってることがおっさんだからね!」 「な、なんだと!?」 「ばーか!ばーか!」 真っ赤になりながらもずんずん進んできて、さっさと体を洗いきって湯の中に入ってきた。 「なんだよ、俺が洗ってやったのに」 「冗談じゃない……絶対明日保健室送りだってば」 くすくす笑いながら、額に張り付く髪を気にしているはもう怒っていなかった。 ふっくらとした唇に、白い首筋。 何もかもが、一瞬にして俺のことを掻きたてた。 「……」 水音をたてて、口付けをする。 水っぽい口付け。 それもすぐに、甘ったるい音をたてる口付けへと変わっていった。 体が熱い。 夢中でを抱き寄せ、柔らかい体をまさぐった。 の腕が背中を引っ掻き、隙間など許したくないと切ながった。 「はっぁ……あ、やぅ…ん、」 「……」 馬鹿みたいに名前を呼ぶたびに、足りない部分が埋まっていく気がする。 指を柔肉に這わせると、湯とは違うぬめりを感じた。 堪らず指を入れ、掻き混ぜるとわんわんとの泣くような細い声が響いた。 「、射れるぞ?」 「……う、ん」 腹につくほど立ちあがった雄を片手で掴み、宛がう。 先端に吸いつくような感触に、ぞくぞくと肌が粟立った。 「んっ……あ」 ずくずくと、熱い中に進んでいき、ぴったりと腰を合わせる。 水中で結合部がいやらしく揺らめいていた。 「あ、もんじの、すごい……おっきい」 「の中、すごい熱い……」 「ふぁ、急に動いちゃっ」 「バカタレ、そんなに締めつけんな」 切羽つまった声で、馬鹿みたいに互いの性器を褒め合って、口付けを交わす。 幾度と繰り返す啄ばむ口付けに、とろりと瞳を濁らせては絶え間なく声を漏らした。 激しくも、柔らかくもある律動に二人で酔いしれていく。 「あ、いっちゃう」 「ああ」 俺の首筋に腕を絡ませて、抱きついたままは体を震わせた。 きゅうきゅうと締めつけられ、そのまま俺も後を追うように達した。 中に吐き出すと、その感触にが「あ」と小さく身悶えた。 そんな一挙一動が愛おしい。 たまらない。 体を動かすのもだるく、そのままに覆いかぶさるように倒れ込む。 「も、んじろ……沈んじゃうってば」 押し返すの腕も、それが嫌じゃないと告げていた。 繋がったまま気だるい、心地よさに身を委ねた。 「、好きだ」 「うん」 夜の中に、このまま二人きりで取り残されたい。 そんな台詞似合わないと、笑うお前が好きだ。 終 時間アンケート夜 一位 文次郎 |