大馬鹿者たちの遁走曲
















「うぉらぁああああ!覚悟!潮江もんじろぉおお!」
「げっ!!!!」


潮江文次郎がのこのこやってきたところを、屋根の上から突然襲撃する!
大成功!!
5回連続土遁の術からの攻撃を繰り返したかいがあった!
下からの攻撃にだけ気をつけていた文次郎は、虚をつかれて一瞬対応が遅れた。
そこを狙って、苦無を二個いっぺんに投げつけた。
一投目の苦無を避けられたが、二本目の苦無は文次郎の肩口を切り裂いた!
ぱっくりと切り裂かれた着物から除く肌が、血をにじませていた。


「こんのぉ、ばかたれ〜!またやりやがったなぁああ!!」
「あ、やばい」


完全に切れた文次郎が目をひんむいて、こっちを睨みつけてきた。
そして、懐から縄標を取り出すと、その場で勢いをつけて回しだす。
私はあわてて、その場を後にしようと足に力を入れた。
よし、飛んでくる前に逃げれる!
と、飛び上った瞬間、右足首に文次郎の投げた縄標の縄がぐるりと絡みついた。


ぐんっ、と下に引っ張られる感触。
落ちる。


浮遊感が体を包んだ直後、落下する。
屋根の上から地面向かってまっさかさま!
や、やばい!
受身とらないと!
背を丸めて、やってくる衝撃に備える。
足に縄つけたままうまく着地なんてできないのよ!!


「っっ!!……てっなぁ」
「くっ、も、文次郎!!?」


来るはずの痛みはなく、私は文次郎の腕の中におさまっていた。
ぎゃ〜!文次郎の顔が近い〜!
きもい〜!


!こんのバカたれが!!」
「ぎゃっ!声でかい!耳元で叫ばないでよ!!」
「うるせー!お前のせいでまた着物破れちまったじゃねーか!!」
「うるっさいって言ってんじゃないのよ!!あんたがよけないのがいけないんでしょ!」
「お前が突っかかってくるのがいけないんだろうが!!」
「はぁ!?あたしのせい!?ふざけるなぁああ!!」


思いっきり文次郎の眉間のしわ狙ってこぶしを突き出す!
だけど、ぱっと文次郎が両手を広げたもんだから、抱きかかえられていた私はそのまま地面に落っこちてしまった。
お尻の痛みを我慢しながらそのまま文次郎に足払いをかけると、見事に文次郎もすっ転んだ!
ざまあみろ!
と思った瞬間、両足をそろえて文次郎が超低空のドロップキックをかましてくる。
私の脇腹にヒットした文次郎キックは地味に痛い。


そして、そのままいつも通りの大乱闘。
と文次郎のその乱闘にいつの間にか自主練と称して、長次と小平太が混ざっての大騒ぎに発展していた。
最後には収拾がつかなくなった三人を長次が縄標を使ってぐるぐる巻きに縛り上げるというのが常となってしまっている。



ちゃ〜ん、女の子なんだから文次郎に手出さない方がいいよ?」
「なに?伊作は私が弱いとでも言いたいわけ?」
「い、いや、そうじゃないけどさ」
「ふん!いっ!!」
「沁みるよ〜」
「い、伊作!言うのが遅い!」
「はいはい、ふー」
「ひぃ〜!」



こうして、大乱闘の後に伊作に手当てしてもらうのもいつもの風景。
別室から時々聞こえてくる叫び声は文次郎の声。
ざまあみろ、仙蔵に手当てされてるんだな。
……私も仙蔵に手当てされたくないなぁ。


「たっく、それにしてもなんで潮江文次郎にそんなにつっかかるんだよ」
「……別に、食満には関係ないでしょ」
「だ〜!なんだそれ!」


ぷいっと顔をそむける。
私が文次郎に突っかかる理由なんて、なんで教えなきゃいけないのよ!
……くそう。























私たちはみな六年生。
辛い辛いといわれ続けてきたが、なんとかここまで残ることができた。
皆で、支え合ったからこそここまで残れたと思う。
それに私は、数少ないくのたまの六年生。
本当に、いろいろあった。
私だって、ずっとみんなと仲良かったから、ここまで頑張れたんだ。
必死になってやってきたな。
ばかやって、笑って、時々けんかして、大騒ぎして。
すごく仲のいい友達だった。
文次郎とだって、一番仲が良かった。
一番、分かってくれてると思ってた。






些細なきっかけだった。





馬鹿みたいな。









4年生になった時、みんな急に身長が伸びた。
私だけ、おいてけぼり。
今まで同じように体術や忍術の練習をしていたのに。
私だけ。
おいていかれる。
胸がかすかに膨らみ始める。
怖いから、きつくさらしを縛った。
これ以上、大きくならないようにと。
体つきが丸くなる。
嫌だから、より一層訓練をした。
もっと、筋肉をつければもしかしたら…と。
だけど、くのいちの術のために先生に止められてしまった。
代わりに私が覚えていくのは色の術。







差が、開いていく。








なのに



!聞いてくれよ!今度の授業でよ!』
『すげーだろ!俺最近筋トレ頑張ってるから見ろよこの腕!』
『俺はな、絶対ギンギンにすごい忍者になって忍術学園の学園長になるんだ!』



なのに



はどうだった?新しい忍術覚えたか?』
『今度よ、どんな忍術か教えてくれよ』
『お前なら、俺たちと一緒にすごい忍者になれるに決まってる!!』




なのに



『ん?どうした?』
『……も、』
『なんだよ?』
『文次郎のばかぁああああああ!!!!!!』
『うわっ、な、なにしやがんだぁ!!!?』







それからだ。
私と文次郎の喧嘩が毎日のようになったのは。
私は、自分の不安を全部文次郎にぶつけるように、がむしゃらにぶつかっていく。




















、お前また文次郎にちょっかい出したそうだな」
「げ、せ、仙蔵」
「げっ、とはなんだ。げとは。ん?」
「い、いいえ。別に何でもないよ?」
「それにしても、本当にお前たちは懲りもせずに続けるな」
「……別に!そ、それに今日だって私が勝ってたのよ!ふん!ギンギンに忍者してるとか、地獄の会計委員長とか言われてるくせに大したことない男だ!!!」


私が鼻高々に言い放つと、きょとんとした三人。
な、なによ?
なに顔見合わせてるのよ。
呆れた顔の仙蔵が口を開く。


「貴様、気付いていないのか?」
「え?」
「はあ…本当どちらもとことん大馬鹿ものだな」
「ちょ、仙蔵!言わない方が」
「伊作、この鈍いは私たちが言わないとずっと続けるぞ?」
「で、でも、文次郎だって!」
「ふん、どちらも大馬鹿なんだよ」
「な、なによ!!!!バカバカって!!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」
「私、馬鹿じゃないもん!!!」
「では、教えてやろう」
「な、なによ!」



































私は、走った。
馬鹿!
文次郎の大馬鹿野郎!
違う!馬鹿なのは私だ!!



『貴様、気付いていなかったとはな』



私、本当に馬鹿だった!



『大方、自分の体格差やら性別で文次郎に八つ当たりしているのだろう?』




文次郎どこ!?




『文次郎はな、ずっと気づいていたぞ。そして、後悔していた』





ねえ、なんで肝心な時にばっかりいないの!?





『だから、お前に付き合ってやってたのだ。わざわざ手加減してな』






そんなことに気づきもせずに、得意になっていた自分!
悔しい。
くやしい、悔しい!
なんて馬鹿な私!




『嘘』
『嘘などではない。二人にも聞いてみろ』






伊作と食満、二人の痛いほどの無言が、肯定してる。
私は、走り出した。
文次郎はどこなの!?
私、謝らないとだめなんだ!
なのに、あたりが暗くなっても、どこにも文次郎がいない。
いつもいる場所を探しても、いつも喧嘩するところを探しても、いない。
私は、走りつかれて、途方に暮れて座り込む。



「文次郎ぉ……どこ、ご、ごめんねぇ」



誰もいない。
文次郎もどこにもいない。
塀に背を預けて、その場にへたり込んだ。
もう、一歩も動けない。
息も荒く、傷も熱を持っていた。



「わた、し……2年間も、ひどいこと、してた」



頬を滑る雫は、私の双眸からこぼれおちていく。
歪む満月が、私を笑ってる。
4年間を崩して、2年を無駄にしたと。
文次郎が優しいことなんて知ってたのに。
私は、それに甘えていた。
ば、馬鹿みたい。



「も、もんじろぉ、どこなのよぉ!!!」
「うるせー」



突然、上から降ってきた一番欲しい声。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上に向けると、塀の上に座ってる文次郎。



「ひぃう、も、もんじろぉ!!」



思わず、幼子のように両手をのばしていた。
苦笑いして、塀の上から降りてきてくれた文次郎。
ほら、やっぱり優しいんだ。



「ご、ごめんねっ、わ、私知らなかった、気付いてなかった!」
「……
「文次郎に、八つ当たりしてた!ご、ごめんねっ!わ、私わたし!」




ぐしぐしと、頭をなでられる。
大きい手。
私と違う手。
あったかい。



「嫌いに、ならないで」



一番言いたかった言葉だった。
いつだって、不安に思ってた言葉だった。
堰を切ったようにこぼれ出す想い。



「この、ばかたれ
「もんじろ?」
「嫌いだったら、相手なんてしてねーよ」



ぽかんとする私に、文次郎は言った。



「ばかたれ」



普段の文次郎とは予想もつかない優しい口付け。
全部に、苦しいくらいのぬくもりを感じた。
ああ、私文次郎が好きだったんだ。
馬鹿な私は今頃気付いた。



「文次郎、大好き」



真っ赤になった文次郎が袖で私の顔をごしごしこすった。



「お、お前の顔、しょっぱいんだよっ!!」




後日、ばっちりこの姿をあいつらに見られててちゃかされるだなんて想いもしていなかった私たちであった。









「いやぁ!の一世一代の大告白!私、ジーンとしちゃった!」
「伊作、それは文次郎の告白の『お前の顔しょっぱい』発言には負けるぞ』
「え〜、仙蔵、私はの顔だったらしょっぱくても舐めたいけどな〜」
「小平太!自重しろ!ぷぷ、文次郎とがかわいそうだろ!」
「……赤っ恥



「だ〜〜!!!お前らうるせぇえええ!!」
「ぎゃぁ〜〜!恥ずかしい!!私の馬鹿ぁああああああ!!」
「あっ!?!逃げんな!!」
「いやぁあああああああ!!!!」

















































愛だけです。
ええ、駄文でも、愛しかない。