地球影

















よく晴れた日

遠くが見渡せる場所で太陽の反対側の地平線に見える

淡い桃色の下に滲む青い空
蒼い部分が地球の影だ


























小平太が何を思いついたのか知らないが、鬼気迫る顔で猪突猛進に私へと突っ込んでくることに気付いてしまったら、逃げるしかないでしょう。
叫び声すらあげず、一目散に体を反転させて走り始める。
捕まったら最期。
それが私たち体育委員会の日常生活において、大事な意味をなす言葉だ。
つまり、体育委員長という肩書きをはずした小平太は全身全霊をかけて私たちにかかってくると言うこと。
逃げろ!
細胞の一つ一つまで雄叫びながら私は走った。
しかし、体育委員なら誰でもわかっている。逃走が全くの無駄だということも、この逃げるという行為も多少なりとも衝撃を和らがせるための行動だと言うことも。


!」


背中にとんでもない衝撃が加わる。迂闊だった。
まさか、この早さで飛びついてくるとは思いもしなかった。


「ぎゃっ!!」


短い声を上げながら、私の体は宙を飛ぶ。
勢いに任せて飛んでいく、から、だ?
いつまで経っても勢いが和らぐことはない。
地面は速度を保ったまま滑るように、飛んでいく。


「いけいけどんどーん!」


どんな身体能力をしているんだ……
先生たち同様の体術でも体得しているのかこの男は。
私を小脇に抱えて、満足げに走る小平太の顔をあきれ顔で見上げると、なにを勘違いしたのか小平太はよけいに笑顔になった。


「さあ、いくぞ!」
「はいはい!お好きにどうぞ!」


半ばやけっぱちで叫ぶと、小平太はどんどん速度を上げていった。
私たち体育委員の宿命だ。





















風が頬を強くひと舐めしては過ぎ去っていく。
隣で揺れる小平太の髷が時折勢い余って私に当たる。


「どうだ?すごいだろ」


目の前にはなにもない。
なにもかもがある。
高い崖の上からは、海も山も村も学園も何もかもが見えた。
私が知っている場所も知らない場所も。
喜びに満ちた小平太の声が浪々と辺りに響きわたる。


「あれは、星の影だ」
「へ?」
「どうだすごいだろう!私が見つけたんだ!」
「もしかしたら、海の色かもしれないじゃん」
「そんなことはない」


まっすぐに、空の境目を指さした小平太が言う。
夜の、色と同じだ。夜の海の色が薄まったのかもしれない。
小平太の指がいつの間にか、私の指に絡んでいた。
がさがさで、武骨で、おっきい小平太の手。
ぐっと、引っ張られると肩と肩がぶつかった。
思わず小平太の方を見ると、にっと歯を見せて彼は微笑んだ。


「長次に教えてもらったんだ!好きな子には、自分の特別の秘密を教えてあげるんだって」
「ひみ、つ」
だけだ。ここを教えたのは」


長次にだって秘密だと、いたずらっぽく笑む小平太。


「あ、」


その後に続く言葉を私が考えるより前に、小平太のキスがほっぺたに触れた。