マッサージ
「やだ〜、もう疲れたぁ!!」
どたっと音を立てて畳に倒れ込んでしまうと、もう身動き一つ取りたくない。
全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げてる。
だから、校外実習なんて嫌いなんだ!
そう、私たち6年のくのたまはたった今!山本シナ先生の恐怖の校外実習二泊三日から帰ってきたのだ。
変装、罠、マラソン、実戦、潜入・・・・もう、とりあえず「やれることはこのさいいっぺんにやっちゃいましょう」と三日前に笑顔で言った先生の言葉には嘘偽りなく、いっぺんにやっちゃいました。
「ひ〜、痛い、痛いよぉ!」
おかげで、こっちはどろどろのぼろぼろのずたずた……。
ただでさえ数の少ない私たちくのたまに労りをください…。
友達も私も学園に帰ってきてから一言も口をきかずに各々の部屋に帰って行った。
こんなになるまで実習させるなんて、先生は鬼ですか?
そして、神様仏様…いるなら出てきてください。
私をいじめて楽しいですか?
微かに聞こえてくる足音。
こんな状況下では最も来てほしくないやつが近づいてくる!
だけど、私には抵抗する体力も気力すらも残ってない。
ただ、不幸な運命を受け入れるだけなのだ。
いつもなら妨害してくれる友人たちだって今は私と同じ生ける屍なんだから。
「〜〜!!!」
すぱーん!と、小気味よい音を立てて七松小平太が現れた。
よかった、戸は壊れなかったようだ。
「〜、三日もいなかったから寂しかったんだぞぉ!!」
ぎゃあぎゃあわめきながら小平太が私に近づいてくる!!
き、危険だ。
このまま上に乗っかられでもしたら・・・死ぬ!
「こ、校外実習だったんだもん・・・しょうが、ない・・・じゃない」
震える体を必死に起こそうとする。
というか、この馬鹿に私が今極限状態であることを悟られたらナニをされるかわかったもんじゃない!
頑張れ私!
「私はもっとにべたべたしたいのだぁ!」
「私はやだ!」
よし、上体を起こすことに成功した。
これで、押しつぶされて私死亡は免れたも同然よ!
「ん?なんか……」
「な、なによ」
「疲れてるのか?」
ばれた!!!
小平太は眉根を寄せて首を傾げてる。
「そ、そんなことないわよ!」
「ん〜……いや、よく見たらなんかぼろぼろだし、あんまいつもみたいに動かないし」
私はお前のおもちゃかなにかか?
う、動かないって……
ば、馬鹿にされるんでしょうか?
それともと、七松小平太は私のことを飼ってる金魚か何かと思っているんでしょうか?
「ほら、こんなに近づいてるのに」
「うっあ!?」
はたと、思考回路の渦から現実に戻ってみると、目の前に小平太の顔が!!
いつもなら強烈なビンタの一つもお見舞いしてやるところなのに、今は本当に驚いて身じろぎするくらいしかできなかった。本当、疲れてるんです。
「ちょ、離れてよ!!!」
「………よし!私、いいこと考えた!」
目の前の顔がいたずらを思いついたようないや〜な笑顔を浮かべた。
つうっと、首筋を冷たい汗が滑った。
「私、を前からマッサージしてみたかったんだ」
「え・・・・」
「なぁ、いいだろ!のことマッサージしてもいいだろぉ!!」
「だ、だめ!!」
「なんでだよ〜!」
「だって、こへの馬鹿力でマッサージなんてされたら私死ぬでしょ!」
間違いなく死ぬ。
あの、鉄球を平然と蹴ったり投げたりできる小平太の力でマッサージなんてされたら、骨折するに違いない!
「大丈夫だ!ちゃんと手加減できるからっ!のことマッサージしたいんだぁ!」
「う……」
「な、な、な?いいだろ?痛かったらすぐやめるから!」
「うう……」
「は私のこと……信じてくれないの?」
大きな目をうるうるさせて、太い眉を八の字に下げて、今にも泣き出しそうで……
いつも騙されて痛い目見たり、失敗してるのはよくよく分かってるんだけど……
この顔に弱いんです。
「あ〜!わかった!分かったわよ!じゃあ、マッサージお願いします!!」
「やった!!私に任せろ!」
まあ、でも疲れてる私を心配して小平太は言いだしてくれたんだしな。
なんだかんだ言って、こへはいいやつだし。
――もにゅ
そうそう、大体痛い目見てることも多いけど、一緒にいて楽しいことばっかりだし。
――もにゅもにゅ
「……おい」
「ん?なんだ」
「七松小平太。今お前が揉んでいるのはなんだ」
「えっへっへ〜、のおっぱい」
残りわずかだった全力が今ここで発揮された。
肩の痛みよ、一瞬だけ去れ。
の必殺ビンタが小平太の頬に炸裂した。
「いってぇええええええ!!」
「馬鹿ぁ!!それが目的だったのか!!」
頬を押さえながらも満面の笑みを浮かべる小平太が憎らしい。
「だって〜!前からって言ったじゃん!それに、と離れててさびしかったんだよぉ!」
「知るかぁ!うら若き乙女の胸を鷲づかみにしてぇえ!!」
「柔らかかったぁ」
「っっ!!ば、ばかっ!」
「はっはっは〜、冗談だよ、冗談!今度はちゃんとするから、な?」
「嘘、やだ!でてってよ!」
「本当だってば、私もうふざけないから!」
ほらほら、と肩を押さえられ、うつぶせに寝かされる。
不信感いっぱいの目で見てるのに、全くこっちのことはお構いなしで背中をマッサージしようとし始める小平太。
私の上に跨ってそうっと優しい手つきでマッサージを本当に始めた。
「ほら、気持ちいだろ?」
「ん・・・うん」
「もうちょっと強い方がいいか?」
「うん…もうちょっとだけ」
分かったと言って、程よい強さで背中が刺激されて・・・
じんわりと滞っていた血液が、かちかちに固められた筋がほぐれていく。
「んぅ、気持ちひひ・・・」
「、疲れてるんだったら寝ちゃってもいいぞ〜」
「ぅう、大丈夫」
「そか〜?」
と言っても、じわじわと肩から背中、背中から腰へとほぐされていくと、今までの緊張も手伝って瞼が重くなっていく。
「んっ・・・・」
「?」
「・・・・」
「ちゃ〜ん??」
「んぅ・・・・・」
なんか、視界がぼやぼやする。
結局小平太にマッサージしてもらってて少し眠ってしまったようだ。
「ひぃあっ!!?」
ゾゾゾと、背筋を甘い刺激が走った。
がばっと上体を上げて肩越しに小平太を振り返る。
「あ、やべ」
小平太は私のお尻を揉んでいた。
「んっ!!ひぃあ!」
「・・・・」
「ちょ、ちょっと!!!」
「〜〜!!!」
「あ!や、袴脱がせようとしないでぇええ!!!」
慌てて小平太を振り落とそうともがき始めるが、そこは花の体育委員会の委員長。
びくともしない!!
「いけいけどんどーん!!」
「やだぁああ!!!!!!!!!!!」
終
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