熱量































軽く体を動かせば、熱くなる。
そんな自然の摂理を持ってして、私は思いっきり自分の袖をめくり上げた。
胸元も前掛けがあるからいいやと、緩めて外気を衣服の中に取り込む。
普段ならば、冷たすぎる空気がほてった体に心地よい。
するりと、滑る様に入り込んできて熱を急速に奪っていく。


「あー、あっつぅ」
「ぎゃー!セクシー!セクシー!」
「小平太うるさい。そんなこと言ったら、あんたなんてセクシ―通り過ぎてわいせつ罪だよ」
「わいせつざいってなんだよ」


純真な目でこちらに説明を求めてくる小平太は、上半身で身につけているのは前掛け一枚。
それでも、汗の浮かんだ肌からはほかほかと上気すら浮かんできそうだった。


「よ…ねん、が、学年一の、滝夜叉丸……つきました」
「おお!滝!ちゃーんと四郎兵衛も金吾も連れて帰ってきたな!」
「わー、滝ごめんねぇ!ありがとう!」
「い、いえいえ…こ、これくらいなんのその…です」


ぼっろぼろになった滝夜叉丸がそれ以上にぼろぼろになった四郎兵衛と金吾を両脇に抱えて地面に倒れた。
確実に地面に顔面が激突しているのに、ぐうの音も出ない二人に思わずは笑ってしまった。
そりゃ、低学年ではああなるわな。


「お、所でつ…」
「一人で、走って行きました」


頑として、「知りません」の意を含んだ声で滝夜叉丸は答える。
また縄から次屋は逃げ出したらしい。
小平太が猪突猛進、体力馬鹿犬なら、次屋は自由気ままだけど、帰巣本能0ワンワンだろう。


「そんじゃま、私が行くしかないかなぁ!」
「そうそう!体育委員長様!次屋が待ってるぞ!」
「いけいけどんど―ーん!」


雄たけびと土煙を上げながら小平太は今戻ってきたばかりの裏山目指して、走り去っていった。


「よーし、小平太も行っちゃったし、二人とも気を失ってるし…」
「うぅ」
「滝夜叉丸、安心して気絶していいよ」
「はれひれほろはれ」


ばったり。
ようやく、見ているのが私だけになったことに安心したのか、滝夜叉丸は変な声を上げて安らかな闇の中へと落ちていった。
おつかれさまと、倒れた滝の頭を撫で撫でしていると、今度はめんどくさい奴の声が背中にぶつかった。


「あー――――!!ちゃん!!!」


しまったと思うよりも早く、しゃがみこんでいた私の体はまっすぐに立たせられた。
目の前に、袢纏を着こんで、顔の下半分を真っ白いマスクで覆った伊作がいた。


「走って熱くなったからって、また腕なんてまくって!」
「ぎゃっ!!」
「ぎゃじゃない!ほら、ちゃんとして!」


手際良く、抵抗する間も与えられずに私の肩までめくりあげていた袖はきちんと両腕を覆い、小平太曰くセクシーになっていた胸元は、これほどでもかと言うほどにかっちり合わせられた。


「うぐ、苦しい」
「風邪ひいたら、もっと苦しいんだからね?」


やや怒気を含んだ伊作の声が、降ってくる。


「そんなこと、風邪ひいてる人に言われたって全然説得力無いんだけど?」


ずずっと、鼻をすする音。
例年のごとく、伊作はまたひどい風邪をひいてしまった。
保健委員長の癖にというか、保健委員長だからといおうか……がにっこりと笑ってやると、伊作は眉根を少し寄せた。


「説得力がないって問題じゃなくて、私は君が風邪ひくのが嫌なんだよ」
「別に、風邪ひいても平気だし、まだ熱いもん」


ふーんと、しばらく何か考える様子の伊作。
背中を静かに流れる汗さえも熱を帯びている気がする。


「じゃあ、こうしようか?」


風邪をひいているだなんて嘘だと言ってやりたいほど素早く、伊作はマスクを顎の下にずらしてちゅっと可愛い音を立てて私の唇にキスをした。


「あ、あ、え?い、伊作?」
「まあ、ちゃんが風邪ひいたら私がちゃんと看病してあげるから安心していいよ」


ぽんぽんと、頭を撫でる伊作の手のひらは大きくてあったかい。
走ることなんかよりも、顔が熱くなってしまった。





































ほのぼの