触れたい君に































どうしてこんなことになっているのか、全く持って着いて行けてない。
それなのに、伊作は朗らかと言える程の雰囲気で、にこにこと笑いながらこちらを見ている。


「早く、ちゃん脱いでよ」


意味がわからない。
言葉それぞれの意味が取れても、繋がらない。
いや、決して繋げてはいけない。繋がった瞬間に私に襲いかかってくるのは羞恥。
ただそれだけだ。


「ほらー」
「うおっっと」


女らしからぬ声を上げて、胸目がけて伸びてきた伊作の両手首を捕えた。
知らず知らずのうちに、浅く息を繰り返し、じわりと汗ばんでいた。
いわゆる、冷や汗。


「大丈夫だってば、そんなに恥ずかしくないよ?」


お前はなという言葉を、辛うじて呑み込んだ。
どうしてこんなことになっているのか。二人で保健室にいる状況は、常々あったからおかしくはない。
しかし、きっかけはなんだったんだろうか。胸が小さいとか、病気がどうのこうの…だった気がしなくもないが、それがこの行為に繋がっていくのはどうにも納得がいかない。


「あ、ちゃんやらしいこと考えてるの?」


だめだよー!触診するだけなんだから!と、伊作が頬を膨らませた瞬間、何かが私の中ではじけた。
なにこれ、私がいやらしい人みたいな言い方はなんでしょうか。
どちらかと言えば、なんの理由も義理もなく乳をもまれる私の方が何かとみじめで恥ずかしい思いをするんじゃないでしょうか?
そこまで言うのなら、良いだろう。
私も女だ。逃げない。


「考えてません」


きっぱりと言い放ち、伊作の両手首を自由にし、更には自分の胸元もさらけ出した。
といっても、最後の防壁とでもいえる黒い前掛けが一応は胸を覆っている。


「はいはい、それじゃあ失礼します」


何たることか、顔色一つ変えずに伊作は掬いあげるように胸に手を当ててきた。


「うーん、別に小さいってわけではないんじゃない」
「…伊作に小さいとか、大きいとか言われたくないです。私サイズで、満足しています」


精一杯の虚勢を張ってみる。
それよりも、一方的に胸を「触診」されている私は、恥ずかしさで溶けてしまいそうだった。
自分からいいといった手前、もうやめてくれとも言いだせない。


「……ふ」
「そうだね、触ってもどこか変なしこりがあるとかもないし、」
「う……く」
「うーんっと」


むにゅむにゅと、そう、まさにむにゅむにゅと音を立てるように揉まれている。
それどころか、伊作は意識して指先で先端を刺激してきているのではないかと勘ぐってしまうような手つきだ。
と言っても、疑いの目を向けても、伊作の表情は真剣そのもの。私の胸を注視している。
こちらの視線に気づいて、一瞬目を上げたが、交わった時にふっと口元に優しげな笑みを浮かべただけだった。
最早、恥ずかしいが女として対象外であるのではないかとすら不安になってしまう。
ぽわんとした頭の中は、気持ちいいんだか、恥ずかしいんだか、悔しいんだか、訳がわからない。
ただ、鼻の奥がツンッと痛い。


「………ちゃん」
「ふぇ?」
「…あーもおっ!」


押しつけられるように重ねられた唇。


「んっ、む!?」


温かい彼の唇にどぎまぎした。
唇を離して、額を合わせられる。
間近で見る伊作の表情はうかがえないのに、目が恥ずかしそうに細められた。
思った以上に低い声が、囁くように耳をくすぐる。


「そんなに、泣きそうな顔しなくったって平気だよ」
「う……」


悟られていた。


「馬鹿だな、好きな子だから触りたいって思っちゃったんだ」


きっと、今伊作は耳まで真赤だろうと思わせるほど、照れた目をしている。
だけど、それ以上に私は息も絶え絶えになるほどに恥ずかしい。


「ごめんね、好きだよ」


もう一度、唇がふれあい、間近で恥ずかしさから思わず笑ってしまった。


「全然、順番が逆だよ伊作」
「うん、でもね……それくらいってことだよ」


本当は、こんな時が来るのを待ち望んでいただなんて、絶対に言わないでおこう。
言葉にしなければ、きっと伊作がもっと言葉にしてくれるから。


「大好きだよちゃん」


大好きだよ、伊作。