小さな恋
真っ暗闇の中にふわふわ浮かんでいる星が瞬いては、その位置を微妙にずらしている気がした。
光って、瞬いて。
笑って、瞬きして。
縁側に足をたらしてぶらぶらさせる。
つま先が行ったり来たり。
遠くに行って、またこっちに戻ってきて。
隣には、留が腰かけている。
留も私と同じように足をぶらつかせている。
「な、伊作」
「なあに?」
「なんかいいことでもあったのか?」
そう聞かれても、私にとってのいいことは今日はあったかな?
つま先が行ったり来たり。
子供じみた行動をとってしまう。
ぶら、ぶら、ぶら。
「ん〜、あったかな?今日は…うん、また誰かの堀った塹壕に落ちて、」
「またかよ?」
「だって、私は気づいたんだけどね」
その時の様子を思い出して、思わず笑いがこみあげてきた。
「私が穴に落ちないようにって、委員会の子たちが」
先輩危ない!!って声が聞こえたと思った瞬間、私のからだは後ろから押されてドスンと塹壕の中に落ちてしまった。
不意に鼻を掠める土のにおい。
あの時と同じように、私は空を仰いだ。
瞬く星。
あの光は動いているのかな?それとも、止まっているのかな?
私には、じりじりと動いているように見える。
「私のこと後ろから押すから、落ちちゃった」
「……ほんと、お前らしいよな」
「そうかな?」
「不運だよ、不運」
食満の笑う声が、虫の声と一緒に響いた。
私は、そっと上を向いたまま目を閉じる。
すると、その声に交じって昼間の光景が思い出された。
先輩、ごめんなさい!先輩は悪くないんです!悪いのは僕たちです!伊作先輩!違うんです!この子たちは悪くないんです!私が思わず後ろから押しちゃったんです!
みんな、いい子だよな。
穴の中から、必死に泣きそうな顔を並べてこちらを見下ろしているみんなに手を伸ばすと、その中でも一番泣きそうな顔をしているちゃんが懸命に手をこちらに伸ばしてくれた。
握りしめた、細い手。
私の手の中にすっぽりと納まってしまうちゃんの手。
あったかかったな。
「ん?何笑ってるんだよ?」
「え〜、思い出し笑い〜」
「なんだそれ」
目を開けると、はらりとまた星が瞬いた。
大丈夫、ありがとう。
怪我してないですか?
怪我はしていないよ。だから、みんな泣かないで。
本当ですか?
本当だよ。
よかった。
そこでようやくちゃんの顔がほころんで、こぼれそうだった涙は引っ込んだ。
私も、その瞬間よかったって思ったよ。
何とも言えない気持ちになって、私は笑った。
「伊作〜、なんだよ。そんなに面白いことか?教えろよ」
「だーめ!留に言ったら、馬鹿にされちゃいそうなことだから」
「なんだよ、伊作のくせに生意気だぞ!」
「わっ!や、やめてよ!」
突然飛びかかってきた食満と大笑いしながら、じゃれ合った。
ああ、あの後、穴から出てきた私に保健委員のみんなが飛びついてきて、こんな風にみんなでぎゅうぎゅうじゃれ合ったな。
あの時と、今とは何か少し違う感じなのに、どっちもとても楽しい。
不思議だな。
伊作先輩、伊作先輩!
なあに?乱太郎。
なんだか、こうしてると伊作先輩がお父さんで、先輩がお母さんみたいですね!
そ、そうかな?
そうですよ!
そうだそうだと、声をそろえてみんなが言うから、私たちはなんだか照れくさくって顔を見合せて笑いあった。
「留〜、星が綺麗だね」
「そうだな〜」
二人で仰向けになって星を眺めた。
明日になったら君に会えるかな。
終
癒し癒し
かわいらしい恋
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