こえなきこえ




















知っていた。
誰もかれも知っていた。
学園に入って、学園で成長して、私たちが何をするのかなんて。
特に、忍びを本気で目指しているのならば。
だから、誰がどうなったかだなんてなるべく聞かないようにしていたし、

目をそむけていた。

だけど、幾度か仕事で姿を見かけることも、顔を合わせれば話すこともあった。
あくまでも、中立の立場としてだが。
だから、今まで対峙することなんてなかった。
例えそんな瞬間が来ても、自分を殺して、相手を殺さなくてはいけないことも何度も叩き込まれた。
忍頭の目がさすように背中に突き刺さる。
上手く、上手くやらないと。
私の体からはじりじりと焦がれるような殺気が出ているに違いない。
感じてくれてる?






鋭い金属音

連続して、金属が爆ぜる

一瞬の火花が闇に慣れた目が彼の顔を捉える

互いの顔は覆面で表情をうかがうことなどできない

だが、私を射るような瞳は相変わらずだった







上手くやらないと。
音、音、音。
今日が闇夜でよかった。
月は私たちの敵だから。
飛び上り、駆け抜けて、誰にも追いつかせない。
忍頭に合図を送ると、目の端で彼が頷いたのが見えた。
よかった……全力で腕をふるう。

毒を使うかな?
それとも、そんなものは使わないかな?
学園一優しかった貴方。

互いに、小細工なんて使っている暇があるのならば苦無を振るい続ける。
もういいかしら?
もういいのかしら?
仲間の気配はもうない。
仲間の信頼は厚い。
大丈夫かな。
大丈夫なのか。






先に口を開いたのは彼だった。
私たちの苦無がひときわ大きく火花を散らせて、お互いに十分な距離を保ち続ける。


「善法寺・・・・伊作」


覆面越しでも息が荒いのが手に取るように分かる。
そりゃそうだ、全力だもの。
何年ぶりの再会だったが、どうやら彼も私も腕を上げたらしい。


「久し振り」
「うん」
「元気だった?」
「うん、そっちは?」
「私は、ただ頑張ってるだけだよ」


控え目な返答が彼らしいと感じる。
とても、懐かしい。
じわじわと、血液が体中をめぐり続けて、どんどん息が上がってくる。
さあ、もう終わりにしないと。
早くしないと怪しまれてしまう。


「伊作、ごめんね?」
「うん、僕こそ、ごめんね」


きっと、また不運だって思ってるんだろうな。
思わず笑みがこぼれた。
私だって、そう思ってる。
私たち保健委員会だもんね。


最後のひと振り。
ねえ、知ってる?
このあたりは私の庭みたいなものなの。
だから、さようなら。


「あっ」


ざっくり刺さった二本の苦無。
きっと片方には毒なんてついてない。
貴方は優しいから。
でもね、私のには毒がたっぷりついてる。
だって、私たちの掟は「必ず殺せ」だから。
本当、運が悪いよ。
私たちに見つかるなんて。
私が殺らないと、また別の誰かが貴方を狙うことになる。
だから。





甘く囁かれる声。
こんなに近くでこの眼を見れるなんて。
ずっと、ずっとずっとずっとずっと

憧れてた。


「伊作、大好き。愛してる」



まっすぐ、私だけを見て。
ねえお願いだから。
私の笑顔をずっと覚えてて。
それだけで、幸せだから。


「ね、逃げて」


そっと流れた一筋の涙が私だけのものだと信じてほほ笑んだ。
ほら、仲間が来てしまうから。
仲間は知ってる。
毒を使わせれば私が一番だって。
だから、信じてくれるよ。
崖から落ちる音。
そう、そこから落ちて逃げて。



















真っ赤な血が滴る苦無が二つ。
朦朧とうわ言を口走る女。

「い・・・しゃ・・・・な・・・・ね?・・・・め・・でしょ・・」

女の胸倉をつかんでさっきの忍びを殺したかを尋ねると、女は私を誰だと思ってる、私の毒を喰らうか?と、途切れ途切れ零した。
それもそうだと、納得して女の体から頭巾と衣服をはぎ取ると崖の下に投げ捨てた。
どうやら、あいつも相手の毒を喰らって長くないようだしな。
代わりはまた探せばいい。























投げ捨てられた彼女の体を抱いて、私は泣いた。
、私も君のこと・・・・・」
声ならぬ慟哭がごうごうと風と共に流れていった。











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