そのまま引きずり出していいよ
私はいつだって、彼の考えていることが分からない。
だって、私は彼じゃないし、どんな思考回路を持っていて中身をしているのかだなんて一向に彼は私に教えてくれる気などないから。
いつまでたっても、私は無知のまま。
「」
なのに、低いその声で長次は私を呼ぶ。
幾度も幾度も呼ぶ。
私は、長次のことなんて何も知らないのに。
「誰と話してた」
「…ぅあ、け、ま…と」
ぎりっと締め上げられた喉の隙間から、息とともに吐き出される私の言葉。
それを聞き漏らすまいとすべて吸い上げてしまう長次。
私は私のことばかり彼に伝えて、結局無知のまま。
ふわっと、意識が白く霞がかった瞬間もう、何もかもそれでもいいと思った。
でも、長次の手が離され自由になった呼吸が狂おしいほどに酸素を求めて一気に私を現実に引き戻す。
「はっ!ぅ、げほっ!けっほ…はっはぁ……はぁ」
「」
こうした後は、必ず壊れものを扱うように私をそっと抱きしめてくれた。
苦しくて、苦しくて、恥も何も気にせずに顔から出るもの全部出してしまっている、こんなにも醜い私を彼は好きだというのだろうか?
なんにもわからない。
「ちょぉ、じ……き、キスして」
「ああ」
噛みつくような口付けだけが、その証だと信じて、彼に身をゆだねた。
長次と同じ部屋にいても、特に何をするわけでもない。
長次は長次で、本ばかり読んでいて、私のことに見向きもしない。
しょうがないから、私は一人で床に寝ころんで、一人で考え事をしていた。
目を閉じて、考えるのは長次のこと。
どうしてこんなことになったのか。
そもそも、私は長次のことが好きなのだろうか?
なんて、くだらないことをぐるぐると考えていると、突然外から声がかかった。
戸をあけたのは潮江だった。
彼は私のことを軽く一瞥して声をかけてきた。
「おう、。またこんなとこにいるのか」
「……」
「相変わらず愛想のない女だな」
呆れた様子の潮江に向かって、分からないとばかりには首をかしげた。
苦笑をかみ殺して、潮江は長次に持ってきた本を二冊手渡した。
返却期限が切れた本を持ってきたようだった。
確かにわざわざここから図書室に行くよりも、長次に持ってきた方が確実だし、手早くその処理も済んでしまう。
「ん、頼む」
「……ああ」
本と潮江の貸出カードとを見比べてさらさらと、筆を走らせていた時だった。
「お?。ここ、どした」
「ぃ、あ!?」
潮江の手がの首筋に伸びて、うっすらとついた赤黒い痕を撫ぜた。
びくりと、体を震わせてとたんに慌てだす。
「な、何でもないの!気にしないで!!!」
「っ……驚いた」
「ふぇ?」
「なんだ、全然しゃべんないから、喋れないかと思ってたぜ」
「あ、ああ……そ、そうね。うん、気にしないで」
「そっか?でも、お前かわいい声してるから、もっとしゃべった方がいいぜ?」
男にもてたいならな、と潮江は冗談交じりに言うと、長次に返却手続きが終わったことを確認して出て行ってしまった。
じんわりと、重い空気が残された。
先に、沈黙を破ったのは長次だった。
「」
「な、なぁに?」
「……こっちにこい」
大人しくが長次の元へと行くと、ぐいっとその細い腕を思いっきり引いて、を抱きかかえた。
小さくうめき声を上げる。
長次がわざと爪を立てての首筋にまかれた包帯を引きちぎる。
うっすらと赤い線を残しての首筋が曝け出される。
肌が裂けて、ぷつぷつと赤い玉が浮き上がってきた。
「触らせた……」
「ぅう……」
浮き上がった玉をべろりと、長次が舐め上げた。
ピリリとした痛みが走る。
「ぁぐっ……」
「」
鷲づかみにされた心臓。冷たく冷たく入り込んでくるのは長次の指。
痛いほどに掴まれた乳房は形を変えてその手の中におさまっていた。
「……俺だけを見ろ」
「ふぁっ!?」
「俺だけを……」
ああ、このまま死んでもいいかも。
普段は凪いでいる彼の瞳が、狂った荒波をたてて私を見つめていた。
この目が私を掴まえて放さないんだ。
なんて、簡単なこと。
「ちょーじ……好き、よ」
「」
この瞳を知っているだけで、私は満足だ。
いつか殺されるのかもしれない時も、その眼で私を射抜いて。
がくがくと、長次の下で揺すられながら、狂った愉悦にこの身を任せた。
終
その激情は愛情なのか
はたまた征服したいだけなのか
手頃な女のか
なんなのか
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