なんだかんだで



































本当にあったま来た。
信じられない。たった今まで目の前にあったはずの私のおばちゃん特製スペシャルランチちゃんだけ今日は秘密ね!のおかずのうち一品が、一瞬目を離した隙に無くなっていた。
もぐもぐと嬉しそうに口を動かしている小平太は、それをごっくんと飲み込んだあとに、小気味よい音を立てながら両手を合わせた。


「ごちそうさまでした!!!いやー!おばちゃんスペシャル風味はうまい!」
「だああああ!私風味じゃないって何回言わせるの!?」
「なははー!細かいことは気にしない気にしない!」


至ってご機嫌な小平太を睨みつけると、もう一度大声で笑ってさっさとお盆を持っていってしまった。
本当、何様だよ。小平太様か?七松様か?どっちにしたって許さないんだから。
どうやって、この血の涙と汗の結果で食べることが出来たスペシャルランチの報復をしてやろうかと、もんもんと考えながら私も席を立った。
なんだかんだ考えらながらも、ご飯は思わず顔が緩んでしまうほどおいしかった。


「おばちゃーん!最高においしかったよ!ごちそーさまー!」
「はーい、お粗末さまでしたー!」


まだまだ、昼食の時間帯はこれから頂点を目指して込み合っていく為、おばちゃんは忙しそうに厨房を走りまわっていた。
私は私で、どうやってあのばか小平太を懲らしめてやるか考えながら食堂を出た。


「あ」


出た瞬間に、遠くの方から何者かが大声で騒ぎながら走ってくるのがすぐに目に飛び込んできた。


「てんめえええ!ついてくんじゃねえええ!」
「うるせーー!食満、てめぇこそなについて来てんだよおおおお!」
「文次郎ー!道を開けろ!!!」
「お前こそ、開けろ!!!」


うっすら土埃さえ上げながら全速力で走ってきたのは文次郎と食満だった。
二人は勝負に夢中なのか、ばちばちと火花を散らしながら周りのことなんて何にも気にしていなかった。
頭の9割9分は小平太への復讐を企てていた私は、そんな二人に咄嗟に反応することもできずに、その二人にぶつかりそうになった。


「きゃっ!!」
「こぉら!!!」


胴に突然腕が回って後ろに強く引っ張られた。
食べたばっかなのに、苦しいと思うのだが、あの二人に衝突されている方がよっぽどひどい目に会っていたに違いない。
私の胴に腕をまわした小平太は、走ってきた二人に中段蹴りを放ち、文次郎の無防備な脇腹へと彼の足が吸いこまれていくようだった。
そして、そのまま吹っ飛んだ文次郎が食満にぶつかり、二人は仲良く壁へと衝突したのであった。


「お前ら―!何やってんだよ!怪我でもしたら、私許さないからな!」
「「こ、小平太〜!!」」
、怪我しなかったか?」
「え、あ、う」


なぜだか、そのまま後ろからぎゅうっと抱きすくめられてしまい、どうしていいのかわからなくなる。
腹に当たっていた筈の小平太の腕はするっと上がって、胸の下で止まった。
胸に触っている腕が恥ずかしいやら、自分が気にしすぎなのかもわからず、ただただ混乱してしまう。
さっきまで、小平太に復讐してやりたくて、えっと。


「あ、あの、小平太」
「ん?」
「あの、そのありがとう」
「うん!」


にぱっと、肩越しに振り返るといい笑顔が見降ろしてくる。


「えっと、その、私のおかず」
「おかず?のおかずはあんまりにもがおいしそうにしてるから私も味見した!」


当の本人が一口も食べていないのに無くなったのを、果たして味見というのだろうか。


「いや、私食べてない…」
「食べたいのか?」
「え?そりゃ、ま、食べたかったけど」
「いいぞ!」


なにがと聞く間もなく、小平太はこの体勢のまま無理やり口づけてきた。
固く閉じた歯列を小平太の分厚い舌がたっぷりと舐めあげていく。


「んっ、んんん!!?」


ぎゅっと、抱きしめられる腕にさらに力が込められる。
苦しくなって、息を吸おうとしたのが不味かった。そのまま舌を絡め取られ、そこからは小平太にされるがままに翻弄されてしまう。
やっと、解放された時には小平太の硬い胸板に背をくたっと預けてようやく立っていられる程度だった。


「うまいな」
「ば、ばか…」
「んっ、かわいい」


すりすりとの頭に頬ずりする小平太に、顔を真っ赤にさせたはほんの少しだけ諦めたような、不機嫌そうな顔をして小さく息を吐いた。


「文次郎、留三郎、それ以上みてたら、潰すぞ?」


なにをとは言わないが、小平太の本気すぎる言葉だと言うのは長年の経験から知っていた二人はそそくさと、今度は静かに食堂へと入っていった。


「ねー、〜」
「な、なによ」


絶対離さない。
放れない。


「部屋いこっか?もう、私痛い」
「あー……あ、あー」


言わずとも、どこが痛いのかなんて明白すぎる。
は一生懸命後ろへ首を伸ばして、小平太の耳元で囁いた。


「もう、私のおかず食べないなら、い、いいよ」


真赤になりながらも、そう言ってくれるの頭へとちゅっと口付けを落した小平太は、の体をひょいと抱き上げてそのまま部屋へと走りだした。
ほんの僅かな何もない時間などもったいない!


「いけいけどんどーん!!!」
「しー!静かにしてよオオ!!」



















85000番おめでとうございますv
優野さんありがとうございます!!!ものすごい待たせてしまいました。
リクエストが『男前な小平太で甘々』とのことでしたがいかがでしょうか><
思考錯誤してみたので、楽しんでいただけたらいいなと思いながら、ドキドキですv
お気に召していただければ幸いです!