挑戦状!
濡れ縁に一人座っている君を見つけたとき、胸が高鳴るのが分かった。
知らず知らずに足取りは軽くなる。
運が悪いなんてよく言われるけど、そんなのはこの思いの前では裸足で逃げ出せ。
ああ、なんて「運がいい」んだろう!
「やあ、ちゃん」
「あ、伊作先輩」
ぼんやりと考え事をしていたようだったちゃんは私に気づくとぱっと花が咲いたように顔をほころばせた。
ああ、なんてかわいい。
ちゃんの一挙一動に胸が苦しくなるだなんて言ったら笑うかい?
「ちゃんどうしたの?」
「ん〜、別に、ただちょっと考えごとしてただけですよ」
「そう?」
縁側から足をたらして、ぶらぶらさせるちゃんの隣に座る。
とっても、微妙な距離。
恋人同士ではちょっと遠い。
だけど、他人同士では少し近い。
とっても微妙な距離。
それが、二人の間を表す指針のようで、苦しくなる。
このほんの少しの距離をどうしたら埋められる?
先輩と後輩。
それだけの関係じゃ、もう我慢できないのに。
風が吹けば、私たちの髪を揺らし、二人の間の空気をかき乱した。
時折り薫るちゃんの匂い。
胸が、苦しくなる。
「あ、ちゃん」
「え?なんですか?」
「うん、ちょっと……じっとしててね?」
そっと立ち上がるとちゃんの後ろに回った。
彼女の後ろに跪くと、首の後ろで縛られた頭巾をほどいた。
小さく声を上げたちゃんに大丈夫と声をかけて、その髪に手を触れた。
「風で、ね。髪が乱れちゃったから」
「そ、そんな気にしなくてもいいんですよ〜」
「ううん、せっかくかわいくしてるんだから、私が直してあげるよ」
斉藤タカ丸君みたいにうまくはないけどねと、付け足すと、笑ってくれたちゃんに一安心。
ただ、本当はちゃんに触れたかったなんて言い出せない。
髪に指を通して、梳く。
単純なその行為にさえ、心が壊れてしまいそうな気になるのを隠した。
「伊作先輩って、優しいですよね〜」
唐突にそんなことを言うもんだから、驚いた。
「な、なんでだい?」
「私だけの秘密がたくさんあるんですよ」
「どういうこと?」
「ふふっ、私先輩の優しいところを実はたくさん見てるんですよね〜」
まるで、悪戯を告白するかのように、ひそひそと声をひそめて喋るちゃん。
よかった、後ろを向いていてくれて。
私のことを見ていてくれた。
その事実だけで、嬉しくて恥ずかしくて、顔に熱が集まってきてしまう。
「先輩って、本当素敵な人だってみんな言ってますよ」
「ふうん、ちゃんもそう思ってくれてるの?」
「ええ、もちろんですよ」
神様、ほんの少しの勇気を私に下さい!
私は決死の覚悟でいつもの自分では考えられないような大胆な行動に出てしまった。
まるで恋人同士がするかのように、ちゃんを後ろから抱き締めるように座った。
ちゃんのせなかが私の胸や腹にぴったりとくっつく。
「わっ、い、伊作先輩?」
ちゃんは驚いた声を出したが、決して暴れるようなことはなく、ぎゅっと体を小さくした。
身じろぎもせずに、お互いの心臓の音が交わった。
「ちゃんが……かわいいから」
「や、そんなこと、ないですよ」
「ううん、とってもかわいい」
嫌がられてはいないかな。
まるで仙蔵がするようなことをしてしまったと、少し後悔した。
「嫌かい?」
微かに、左右に揺れる頭。
ちゃんの耳は赤く染まっていた。
ああ、私はなんて幸せなんだろう!
「おお〜い!〜〜!!」
その時、突然大声が私たちまで届いた。
はっと、ちゃんはうつむいていた顔をあげ、声のした方を見た。
私もそちらを見ると……
「あ、け、け、食満先輩!!」
「、捜した……ぞ」
「あ、や、こ、これは」
「や、やあ食満」
「伊作、お前何やってんだ」
走ってきた食満に固まる私たち。
う、運が悪い……
そう、うまくいきすぎてると思ってた。
不機嫌そうに、眉を吊り上げる食満がこちらを睨んでいた。
今日もはあそこで考えごとでもしているだろうと思い、走った。
いつもは明るいが時折見せるそんな姿が可憐でかわいいと思ってる。
遠くから、桃色の装束が見え、走るスピードが自然と早くなってしまう。
そして、思わずのことを呼んでいた。
まったくその時は、の後ろにある影には気づいてもいなかった。
そして、今この状況。
なんだ、なんで伊作とが恋仲の二人みたいに縁側に座ってんだ?
え?こいつら付き合ってんのか?
「あ、食満先輩、こ、これは別に」
くそ、大人げないって分かってんのに、勝手に体が動いた。
座ってるの腕をとると、ぐいっと引いてしまった。
「わ」
驚いて、声を上げるをそのまま抱きしめた。
お、思った以上に細い体に、バカみたいに心臓が高鳴った。
「食満、なにするんだよ!」
抗議の声を上げる伊作。
珍しく突っかかってくる伊作に、少し驚いた。
まさか……
無言の会話が俺たちの間に交わされる。
6年も付き合ってれば、大体お互いの考えてることなんて分かるもんで。
(お前…まさかのこと)
(食満だって…まさかちゃんのこと)
(ていうか、お前になにしてんだよ!)
(君こそ、を抱きしめて!!)
「け、けま先輩?」
はっと気づくと、が俺の腕の中でこちらを見上げていた。
やべ、普通にかわいい。
ゆっくりと育て上げていた感情が、急成長していく。
やわらかな、唇ばかりが目についた。
「」
「?先輩、どうしたんですか?」
ほんの少し残っていた自制心をフル活動させて、手をほどいた。
伊作がいなければ、絶対に口付けてた……な。
頭巾をかぶっていないの頭をぐしゃぐしゃとなでた。
ちっさい頭だな。
「あっ!!食満!せっかく私がちゃんの髪綺麗にしたのに!」
「や、大丈夫ですよ、伊作先輩」
「ふん、直せばいいだろ」
文句を言ってくる伊作を尻目に、そんなことしてたのかと、イライラしてしまった。
それを紛らわせるかのように、今度は優しくの頭をなでた。
恥ずかしそうに、目を伏せて頭をなでさせてくれるがいじらしくて、かわいい。
「……ほっぺになんかついてるぞ?」
「え?」
「とってやる」
我ながら、なんてばればれな嘘だと思ったが、このイライラを伊作に見せつけてやろうと思った。
というか、がかわいすぎるのがいけないんだよ。
わしと、頭をつかむとおとなしくしているの頬に口付けをした。
ちゅうっと音を立てて離した唇。
ゆっくりと離れていくの顔がどんどん赤くなっていった。
かわいーやつ。
優越感を持って、伊作の方を見ると、珍しく怒った顔をしていた。
「食満!なにやってんだよ!」
今度は、の腕を伊作が引いた。
優しくの体を抱きとめた伊作は、のあごに手を当てての顔を覗き込んだ。
ま、まさか!!!
伊作はそのまま俺が口付けたのとは反対のほほに唇を寄せていた!!
こんにゃろ〜〜!!!
「伊作!てめぇ!何してる!!?」
「なにって、消毒だよ?」
「わわわわわ……・」
真っ赤になるをはさんで俺たちは睨みあった!
((絶対に(ちゃん)は渡さない!!!))
そう!俺たちのゴングは鳴らされたばかりだ!!!
終
おがわ芯さん!
500キリリクおめでとうございます!
踏んでくださってありがとうございました!!
リクエストは、「六はであまあま」でしたが……どうでしょうかw
駄文ですが、喜んでいただけたら幸いです!!
いやいや、いつもありがとうございますねwwww
お持ち帰りは芯さんだけおkですv
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