(猫が好きな私と 猫の目に異常な恐怖感を持つ人)
























仕事の途中でたまたま見つけたその猫は、やたらと人懐こく、私を見つけると甘えるように擦りよってきた。
無言のまま抱き上げると、嬉しそうに胸に頭を擦りつけてくる。
柔らかく、何度か撫でてみると「にゃあ」と、小さくなく。
こういった猫は躾ければ何かと、仕事の役に立つことがあり重宝する。


「…お前も、才能ありだぞ?」
「にゃあ」


しかし、そんなことよりも愛くるしいこの生き物を、私が愛でたくてしょうがない子の所に持って行ってやったらどんなに喜ぶだろうかと、考えてしまう。


「さて、と。いい手土産も見つけたことだし、たまには会いに行ってみようか?」
「なーん」


とか言いつつ、実は三日前も会いに行ってたりする。






















ちゃーん」
「ぎゃあ!!?」


勉強しているらしいちゃんを後ろから思いっきり抱きしめると、これまた可愛らしい声を上げて身悶えてくれる。


「わわわ、ざ、雑渡さん!?ま、また来たんですか!?」
「何言っているんだい、前来た時からもう大分経つじゃないか」
「いえいえ、三日前に確かに雑渡さんは私が寝ている横にちゃっかり入りこんで寝てるのを私は見ました」
「ああ、そんな些細なことまで覚えていてくれるなんて、ちゃんは私のことが気になってしょうがないお年頃なんだね」
「違いますってば!」


ああ、かわいいなあ。
くるくる変わる表情が、たまらない。
あんまり暴れようとするもんだから、しょうがなく手を離してやると、いい大人が何とかかんとかいいながら、私の胸を両手を突っ張らせて押しやって来る。
と、その時


「にゃあ」」
「って!うああああああああん!!!」


懐にいれていた、あの猫がひょっこり顔を出した。
すると、その途端ちゃんは大声を上げて後ろに後ずさる。
だけど、すぐ後ろは机でがつんと、痛そうな音を立てて止まった。


「ん?どうしたんだい?ちゃん」
「わわわわわ、ね、ね、ねねねこじゃないですか!!」


びくっと体を震わせ、見てはいけないものを見たとでもいうように、慌てて目を覆う彼女。


「女の子といえば、猫とか犬とか動物が好きなものじゃないのかい?」
「偏見です!犬は死ぬほど大好きですけど、ね、ねこはっ!!!む、無理なんです!!」


むっくりと頭をもたげる悪戯心。


「そうかい?でも、この子はちゃんのことが好き見たいだけどね」


懐から猫を出してやると、予想通りに一直線にちゃんの所へと歩いて行った。
ごろごろと咽喉を鳴らしながら、膝の上に乗ると、ちゃんの腹にぐりぐりと頭を擦りつけている。


「っ!!ひぃ…あ、あ、あっち行ってよ〜…」


嫌いだと言っても、相手が動物のせいで、なかなか強く出れないらしい。
恐る恐る指の間から自分の膝の上にいる猫を見ては小さく呻いて、どうしようかと視線を迷わせている。


「にゃあ」
「わっ!ちょっと!ざ、雑渡さん!!」
「なー」
「にゃあ」


猫と同じように、ちゃんの膝に頭をのせて、下から彼女の顔を覗き込んだ。
そんなに驚いたのか、目を覆っていた手を万歳の形に上げている。
まるで、降参しているみたいだなぁ。


「にゃあ、にゃあ」
「ひぃ〜」


それにしても、柔らかくて気持ちいいなぁ。
女の子特有の甘い香りが布越しに鼻をかすめる。


「ほ、本当に怖いんですよ…」


今にも泣きだしそうなちゃん。
思わず苦笑して、彼女の手を取った。そして、その片手を取って猫の頭へと導いた。


「ほら、何も怖くないじゃないか」
「あう」


柔らかい獣毛を手を重ねて撫でさせてやる。少しだけ、手が震えていたが、猫が心地よさそうに目を細めるとその震えも収まった。
表情も、幾分か柔らかくなり、目尻にまだ涙が残っているが口元が少し微笑んでいる。


ちゃん」
「え?」


残った片手で、ぐっとちゃんの頭を引き寄せた。
じりっと、間近で視線がぶつかる。
微かに震える彼女の手。
頬に当たる彼女の髪がくすぐったい。


「にゃお」
「ふっ……ん、むぅ」





































畏怖するは、あなたのその瞳。
まるで肉食獣そのものだと、気付いているのだろうか。