(早足で進む私と 余所見をしながらのんびり行く人)




















「ああ、もう、どうしてこうなのよ!」


思わず口を突いて出た私の声に、驚いたのか眼を見開いて久々知は私のことを見つめていた。
交わる視線にすらイライラしてしまう。
目線をまるで断ち切るかのように逸らして、私は再び手元に戻した。
そこにあるのはぐちゃぐちゃになった網。
くすりと、彼が笑う声が聞こえたのが余計に腹立たしさを増長させ、乱暴な手つきで、網をこねくり回す。


「ああ、。だめだよそんなに強くしたら」
「うるさいわね!強く引っ張れば取れるでしょ!」


躍起になって縄と縄の端を持って引っ張ると、縺れていたところがぎゅうっと硬く結ばれてしまった。


「あーあ……だから言ったじゃない」


久々知の笑い声とため息。
自分の不甲斐なさをあからさまに見せつけてくる、その結び目。
まるで、お前はやっぱり落ちこぼれだと嘲笑っているかのようで。
要領のいい久々知はきっと私を馬鹿にしてるんだ。
だから、いつもこうして一緒に居残ってるんだ。
ぎゅっと、唇を硬く結ぶ。


「………」
〜?ほら、私に貸してみなよ」
「……やだ」


顔が熱い。
鼻の奥がツンとして、もう、ヤダ。


ちゃん〜?」
「そんな風に呼ばないで。……最近久々知、三郎みたい」
「げっ!本当?」
「本当」


馬鹿にされたような気がして、じとっと久々知のことを睨みつける。
でも、そんな私のイライラもまるで見えてないかように、久々知はへらりと顔を崩した。


「ほら、ね?」
「……ん」


差し出された手に、縺れた結び目を渡した。
白い久々知の指がするりするりと縄をつまみ、網目へと難なく指先を潜らせていく。
さっき私がやった時は一向にほどけそうもなかったその結び目が徐々にほぐれていく。
久々知ってば集中しているのか、ちょっと唇を突き出してる。


「……なんで?」
「ん?」
「なんで……そんなに簡単にほどけるの」


ちらりと、手元から久々知の視線がこちらに向いて、じっと私の眼を見つめてきた。
私は怒ったような声を出して久々知を睨みつける。
どうしてなのよ。と。
すると、久々知はすっと視線を伏せてしまい私が見つめているのは彼のまつ毛が眼もとに落とした影ばかりだった。
ああ、久々知はどうしてあんなにまつ毛が長いんだろう。


「ねえ、久々知」
「んっとね……」


くうっと彼の口の端が吊りあがったのを見てから、あ、笑ってると、ふと思った。


「教えてほしい?」
「……」
「……
「…ほしい」


はらりと、その瞬間あれほどまでに絡まっていた網が元の通りこじれも何もかも消えてなくなっていた。
綺麗に両手で久々知が網を広げて私に見せてくる。


「焦らないこと。動揺しないこと。我慢強く待ってあげること」
「え?」
「私は、得意なんだ」


首を少しかしげて、笑顔を見せてくる久々知。
そんなの、わかんないと、声を上げようとした時


ちゅ


素早く久々知が顔を寄せてきて、一瞬何が起こったのか分からなかった。
唇に当たった柔らかい感触。


「あ、や!!!?」
「ほらほら、動揺しない」
「ん……」


久々知の指が伸びてきて、私の唇を「しぃ〜」と言って閉じてしまう。





顔から火が出るかと思った。


「好きだよ?」


久々知はまるで、天気の話でもするのと同じように、その言葉を口にした。













































落ちこぼれな
いつも手伝ってくれる要領のいい久々知。
余所見をしてみたら、そこに君がいた。