かわいがってあげる!
恐怖の荒い息、食満先輩と文次郎先輩をやり過ごした私は、未だに走っていた。
正直、この先どこに行ったら綾部とタカ丸セットではなく、単品で会うことができるのだろう。
二人揃ったら、何か嫌なことが起こる気がしてならなかったのだ!
「くっそ〜、どうしよぉ〜!」
と、その時名案が思い浮かんだ!
「そうだ、作法委員があるじゃない!委員会には綾部しかいないはず!!」
そうときまれば、やばそうな人たちに見つからないように、作法委員が活動場所にしている教室を目指して走った。
正直、障子に自分の影が映ると、なんだか化け物みたいな感じがしてあまりいい気がしない。
だけど、そんなことを気にしているよりも、もっと気になることがある。
「すいませーん、おじゃましまーす」
するりと、音も立てずに障子をあけると空っぽの教室。
「あれ?だれも、いない?」
恐る恐る中へと足を踏み入れた。
ここの委員会にはカラクリ小僧の兵太夫がいるから、慎重に行かないと編入した頃のタカ丸みたいに裏山に吹っ飛ばされるという危険性だってあるのだ。
一歩目は、無事に入ることができた。
後ろ手に障子を閉じる。
さあって、誰もいないみたいだし、しばらくここに隠れて綾部がまんまと一人で戻ってくるのを待と
「ぎぃああああああああああ!!!!!!」
ふと、部屋の奥へと目をやると生首のフィギアがずらりと並んでいた。
いや、不気味だけど、それだけだったら私だって平気!
違うの!
こっちを見て、にこにこ微笑んでる兵大夫の顔がその列に紛れ込んでいた。
瞬きもしっかりしてるし、ときどき口を動かす。
こ、こえええええええ!!
「お、お化けっ!兵太夫〜!ば、化けて出るなら三治郎のとこにしてぇええ」
あまりの恐怖に、くるりと、しっぽは股の間に入り込んで、耳はへちゃりと伏せてしまう。
こ、こええええええ!
「ははは、せんぱーい?」
「あがががが、へいだゆう〜成仏して〜〜〜!」
「先輩、大丈夫ですよ?僕生きてますよ〜」
「ふ、え?」
涙目のまま顔を上げると、苦笑している兵大夫が手を振っていた。
どうやら、兵太夫のいる所の畳は穴があいているようで、その穴から首だけを出していたようだった。
さすが、作法委員会。
とんでもない恐怖トラップで私を出迎えてくれたもんだ。
「は、へ、兵太夫のばかぁ!」
「えへへ、ここまで怖がってくれたの先輩だけですよvvv」
くそ、嬉しそうに微笑む兵太夫かわいい。
一年生の癒し笑顔に、さっきまでの恐怖が緩和されていく。
仕返しとばかりに、近づいてきた兵太夫をすばやく捕まえて、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「わ、先輩やめてくださいよ〜!」
「やめなーい!兵太夫あんまり私のことからかうと、こうだからねっ!」
片手で、兵太夫の頭をぐりぐりと小突いてやる。
「分かりました〜!もう、やりませんからぁ〜」
「よーし!分かればいい!」
手を放して、お互いに顔を見合せた私と兵太夫はけらけらと笑いあった。
あー!本当かわいいなぁ!
さっきの息の荒い六年生とは大違い!
「わぁ、それにしても先輩!その耳としっぽ本当にくっついてるんですね!」
「そうだよ〜、なんか、変だよね?」
「そんなことないですよvとってもかわいいです!」
にっこりとほほ笑んで、自信満々に兵太夫が言うもんだから、耳も悪くないかもと思ってしまう。
「わ〜、先輩それ、触ってみてもいいですか?」
「うん!いいよv」
「かわいい〜v」
興味津々で、無邪気に私のしっぽと耳とじゃれつくのを見ると、本当どっちが可愛いんだかわかったもんじゃない。
いや、確実にかわいいのは兵太夫の方だけどね!
あまりの癒し系の出現により、気を抜いていた私の後方から突如声が上がった。
「兵太夫!今だ!」
「はい!!!!!」
「え?」
突然の浮遊感。
ぐるりと反転する視界。
「わ!?ちょ、や、やだ!!?なに!?」
両足をそろえて天井から、吊るされてしまった。
急なことに、対応できず訳が分からずじたばたする私の前に現れたのは
「た、立花仙蔵先輩!!!?」
「ふ、やはり動物を捕まえるのには餌を置いておくのが一番、か」
「私動物じゃありません!!」
「よーし、兵太夫よくやったぞ〜」
「えへへ、先輩ごめんなさーい!」
無邪気さが恐ろしいよ、兵太夫。
というか、さすがS法委員会。
「立花先輩、やっぱり先輩のしっぽと耳は本当に生えてます!」
「ほう、そうか」
「なんなの〜!そんなこと直接私に聞いて下さい〜!おろしてぇ!」
「よし、兵太夫。後はいいから、ご褒美をおばちゃんに用意してもらっておいたから、食べてきなさい」
「わぁい!先輩ありがとうございまーす!!」
「って!私の話聞いて下さいよ!そして、兵太夫ご褒美で私をこんな目にあわせたの!?」
私の叫びもむなしく、兵太夫は障子を閉めて出ていってしまった。
「ふむ」
「い!!!!?」
立花先輩はだらりと垂れていた私のしっぽをつかむと無理やり上に引っ張った!
痛みが尻尾から伝わってくる。
「いった〜、な、何するんですか!!」
「案外柔らかいのだな。しかし、芯に骨が通っているのか」
「立花先輩!!痛い、から離して下さい!!」
叫んでいるのに、再び立花先輩は手に力をこめて引っ張り上げる。
し、しっぽ抜けるんじゃないかと思うくらいに痛い!
「い、痛いっっ!」
「仙蔵だ」
「え?」
「仙蔵だ」
「ひっ!?せ、せんぱっ」
「仙蔵先輩と呼べ」
「ふぁ、ふぁい!わ、分かりまし、たから!!」
「よし」
ようやくしっぽを引っ張るのをやめてくれた。
い、痛すぎた…。
目尻からは涙がうっすらと滲んできた。
はあはあと、荒い息をしながら、下から「仙蔵先輩」を見上げる。
逆さになったところで、先輩の意地わるい笑顔は変わらなかった。
「さ、呼んでみろ」
「せ、仙蔵、せんぱい」
「もう一度だ」
「仙蔵先輩……」
「よし、いい子だな」
嘘かも知れないけど、すごいきれいな笑顔でほほ笑んだ仙蔵先輩は、逆さになってる私の頬をなであげた。
頬から、喉元へと、先輩の細い指が滑っていく。
「ん、」
「どうした?心地よかったか?」
「ち、ちが!」
「ふん、まあいい。それよりも」
「仙蔵先輩?」
わしわしと、私の耳をなでる先輩。
じわりと、心地よさが体に広がってくる。
「丁度手頃な猫が欲しかったところだ」
「え?」
「、私が飼ってやろう」
まぶしい笑顔に、一瞬胸が高鳴ったのは仕方がない現象だと思う。
でも、
「わ、私は猫なんかじゃないです〜!というか、人間だぁああ!!」
「啼いて喜ぶほどかわいがってやるぞv」
獣の耳に向かって、さらに囁かれた。
「粗相をしたら、啼くほど仕置きもしてやるがな」
優しく耳を玩ぶ、仙蔵先輩にぞっとした。
どっちにしたって啼くんじゃん!!
やばい!私、大ピンチ!!!!!!!!!!
こ、こんなところに来るんじゃなかった!!!
続
ドS法委員会ですねv
ドSな仙蔵様に飼われてみる?
YES?NO?
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