ゆれるな しっぽ!





















は、は、は……乾いた笑いしか出ません。
今の私。
ずたぼろ、土ぼこりが目にしみる。
なんか、汗臭い?え?獣臭い?
最悪なんですが。という状況です。






何でこんなことになったかというと、保健室でばっちり伊作先輩に見つかった私はなんとか大混乱の場を鎮めるべく伊作先輩に事情を説明していた。
するとそこに新野先生が学園長先生を連れてやってきて、またまたなぜか耳としっぽが生えてきてしまったことを説明して、学園長先生に興味本位で耳をなでられたりして。


「まあ、わしもこんなの初めて見るからのぉ。まあ、特に問題はないじゃろ」


この一言で、私は学園から追い出されずに済んだ。
だが、先生たちが他の先生にも連絡するから、とりあえずここにいるといいと言われたあとが問題だった。


「よかったね、ちゃん。でも、追い出すだなんて学園先生がもし言ってたら私が絶対君のこと守ってあげたのになぁ」
「い、伊作先輩!!」


天使のような笑顔で私の頭をよしよしとなでてくれる先輩。
ああ、そうよ、この4馬鹿よりもやっぱり頼りになるのは伊作先輩よ!
じーんと、伊作先輩の偉大さに感動している私の耳が誰かが走ってくる音を聞きつけた。
なにか、嫌な予感がした。
獣の耳としっぽのせいか「本能」ってやつが私に囁いた。
『隠れろ!』と。
私は病人が横になっているのを隠すための衝立の後ろに移動した。


「ん、どうしたのちゃん?」
「タカ丸……耳触っててもいいから、静かにしててくれる?」
「いいよ〜v」
「あ、伊作先輩誰か来るみたいですよ?」
「え?本当?」
のしっぽっぽ〜」
「あぁ、んもう。綾部も噛まないなら、しっぽ持っててもいいから静かにしててね」
「はーい」

狭いこの場所に三人って……。
ぎゅうぎゅうというか、綾部はみでてるし。
見えちゃってるけど、とりあえず私が見えなければいいからそれは見ないことにした。
衝立の向こう側に座り込んだ滝夜叉丸と三木エ門が「まだ私は触ってもないのに」とか同じようなことを二人でぶつぶつ言ってるのも聞こえない。
それよりも……
私が身構えた時には他の人たちにも足音が聞こえてきたようだ。
あっという間にその足音は保健室まで来ると、思いっきり戸をあけて入ってきた。


「いさっく〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


やっぱり!七松小平太先輩!!!


「わ、小平太。どうしたんだい?」
「私たちと一緒にバレーをやるぞ!!」
「え?ええ?え?」
「ん?なんだ、滝もいるじゃないか!」
「な、七松小平太先輩……」
「おお!他にもいっぱいいるじゃないか!」


危ない。
絶対この姿見られたら追いかけまわされる自信がある。
七松先輩動物すきそうだし。先輩本人も動物っぽいし。


「よぉし!今からみんなで校庭でバレーだ!!」
「え?いや、私は……」


ぎゃあぎゃあ先輩たちが騒ぎだしたけど、なんとか、こちらに私がいることはばれてないようだ。
滝と三木には悪いけど、二人が先輩と一緒にバレーしてくれればその間この二人の相手するだけで済みそうだし。


(ね、ちゃん)
「ひっ!?」
(しー)


急に頭上の耳に向かってタカ丸が囁くもんだから驚いて小さく叫んでしまった。
慌てて自分の口を押さえてタカ丸を睨みつける。


(ね、ね、ちゃんとこっちの耳聞こえるんだね)
(そうなの。くすぐったいから、そこであんまりしゃべらないで!)
(ふふ、かわい〜v)
(いぅ!?)


た、タカ丸!?
か、噛みやがった!!!!
でも、ガタガタしちゃったけど、声我慢できたし、どうやら向こうにはばれてない?


(ばかっ!)
(いっっ!!)


私がぎゅうっとタカ丸をつねると、耳からようやく手を放した。
確かに静かにはしてたけど、悪戯をしていいだなんて私は言ってないからね!
という気持ちを思いっきりこめてにらんだのに、相変わらずタカ丸は私のこと見てニコニコしてるし。
と、その瞬間。
タカ丸に全神経を持ってかれていたために、不自然に部屋が静かなことに気づいた。
え?なんで、こんなに静かなの?
後ろをうかがうと、綾部が立ち上がっていた。
………
ぴんとお尻は引っ張られてる感が。


「じゃじゃじゃ〜ん。ウナギのつかみどりぃ〜」


綾部の手の中で黒い私のしっぽがうねうねと自由を求めてもがいていた。
ぎぃあああああああああああああああああああああ!!!!!
私の声なき声が心の中で叫ばれた。


「綾部、それなんだぁ!?」
「これはウナギだと思わせてしっぽでーす」


ほらぁああああああ!
小平太先輩喰いついちゃってる!
いや、普通の人でもうねうねしてる謎の物体Aを綾部が「ウナギのつかみどり」って言いながら持ってたら気になるに決まってるけどね!
あっという間に取り除かれてしまった衝立。
ああ、体育委員の馬鹿力のバカ!
腰やら足やら腕やらに、伊作先輩と滝と三木をくっつけた七松先輩と目があった。
痛いくらいに視線が刺さってる。


?」
「あ、あはは……こ、こんにちは」


ああ……小平太先輩の目が輝きだした。


「かぁわぁいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「ひぃ!!!」
「猫ちゃんだぁ!!!!!!!!!」


私は飛び起きると綾部の手から尻尾を抜き取ると思いっきり走り出した。
完全に小平太先輩の行動パターンから行けば、これは抱きつかれる。
しかも、思いっきり。
案の定肩越しに後ろを確認すると、キラキラした笑顔で両腕を広げて追いかけてくる小平太先輩の姿を確認することができた。
先輩嫌いじゃないですけど、私まだ死にたくないんですぅうううううううう!!!






もう、そのあとも散々……
小平太先輩から逃げるために学園中逃げ回ったせいで、私のこのこっぱずかしい姿は学園の生徒から先生たちに至るまで知れ渡ることになったのだった。
途中、綾部が堀ったタコ壺に落ちること約3回。
私を助けようとして逆にピンチに陥れてくれた伊作先輩がひとり。
なんとか逃げ切ったけど……(なにせこっちは命がかかってるんだから)……つ、疲れた。
いつの間にか日も暮れてるし。
しかも、ぼろぼろのぐちゃぐちゃだよ。
汗臭いというか、獣臭くなっちゃってる気もするし……
せっかく好い手ざわりだった耳としっぽもなんかゴワゴワしちゃってる…。


「あ、さん捜したわよ」
「うぅ、先生〜」
「あらあら、ドロドロじゃないの」
「そうなんです、よ」
「ふふっ、それじゃあ丁度いいお知らせよ」
「なんですか?」
「あなた、その姿他の子に見られるの恥ずかしいだろうから、先生たちで相談して、全員が上がった後に特別に一人で入っていいわよって」
「え!?ほ、本当ですか!!?」
「ええ。本当。だから、ゆっくり疲れをとってきなさい」
「はい!!!」


す、すごい嬉しい!
くのたまのお風呂を一人で使っていいですって!?
やった〜!一人でのびのびお風呂だぁああああ!
さっきまでの疲れも一人のびのびお風呂の朗報のおかげで吹っ飛んだ!
私はあわてて自分の部屋まで戻ると、通常時の1.5倍の速さでお風呂の準備をすると湯殿へと向かった。











「やった〜〜〜v本当に一人だぁv」


私は嬉々として体を洗い始めた。
丹念に砂を取るように尻尾と耳をよく洗う。
こんなもの洗ったことないけど、これでいいんだよね?
尻尾も気持ちよさそうにゆらゆら揺れている。
そして、洗い終わると広い湯船に体を滑り込ませた。
頭にはもちろん手ぬぐい。
ああ、なんて幸せ。
この耳としっぽのせいでなんだか、今日は散々な目にあった気がするけど、嬉しそうに揺れる尻尾を見てたら私もうれしくなってしまった。
きもちいいいい〜〜〜v


手足をのばして、じんわりと体が温まっていくのを実感する。
今日の疲れが全部湯に溶けだしていってるみたいだ。


と、その時不穏な音が頭上から降ってきた。



ミシミシミシミシミシ!!!!!!!!!!



どぽーんと、天井から男どもが降ってきた。


「なぁ!!!?何やってんのぉ!!!!!!!!?」


滝、三木、タカ、綾部の4馬鹿にこ、小平太先輩!!!?
私はあわてて手拭いを広げて体に巻きつける。
よかった、しっぽと耳洗うように大きいやつ持ってきておいて!



「ああああ!!、こ、これはな!」
「ああもう!七松先輩が暴れるからですよぉ!!」
「なはは〜、ちょっとやりすぎた!」
「って、お前ら覗きか!!!!!!!」
「わ〜いvちゃん胸みちゃった〜v」
「私はしっぽの付け根が見たいんでーす」
「見せるか!!!」



がっちりタオルをつかんで、完全ガードの体勢をとった!
だが、なんか、奴らの視線がこっちにガンガンに釘付けになってる。
なんかしゃべるならまだいいけど、黙ってるあたりが怖い。


「な、何よ……」


三木エ門が顔を真っ赤っかにして、震えながら私を指さした。


……しっぽ」
「え?しっぽ?」


視線を自分の下半身にやった瞬間、私はそのまま恥ずかしさで蒸発してしまうかと思った。


しっぽが うねうね 揺れて、 手ぬぐい めくり上げてるじゃないですか。


ギリ見えてないけど、すさまじくきわどい!


「いやぁああああああああ!!!!!ゆれるなしっぽぉぉぉ!!!!!!!!」















続く

















しっぽによるしっぽのための夢。