あなたの声をよく聞くためです
結局あの後、ぐすぐすなく私を新野先生は優しく診察してくれて、
体にみみとしっぽ以外は異常はないことを確認してくれた。
それにしても、どうしてこんなことになってしまったのかは全くの不明。
むしろ逆に、狐狸の類に憑かれてしまったのかと心配したが、精神的にも変なところはない。
完璧といっていいほどにいつもの私だった。
「うぅ〜ん、とりあえず私は学園長先生にこのことを伝えに行ってくるから、君はしばらくここにいなさい」
「……はい」
「ああ、それと君一人じゃ誰か来た時に困るだろうから君たちも一緒に留守番よろしく頼むよ。君は誰か来たら衝立の後ろで寝てるふりでもしておけば大丈夫だろう」
「え!!?」
「「「「は〜い」」」」
私が抗議しようとした言葉は息の揃った四人の声にかき消されていた。
く、くそう!
でも、一人にされても、これ以上他の人に見られてしまうよりかはましか。
そして、取り残される私たち5人。
「………」
なんか、気まずい。
というか、私が恥ずかしい。
「ひいい!?」
「おやまあ、本当に生えてるんですねぇ」
ぞぞっとしたかと思うと、いつの間にか綾部が私の尻尾をつかんでいた。
ちょ、ひっぱらないでよ!
「や、あんまりひっぱると痛いから!」
「ふぅ〜ん」
くいくいと、軽く引っ張って尻尾がとれないことを確かめると、今度はうねる尻尾と綾部は遊び始めてしまった。
なんか、恥ずかしいんですけど。
「僕もさわりた〜いv」
「ちょっと!タカ丸!!」
タカ丸がにっこにこの笑顔で私の頭上の耳を触りだした。
くすぐったいっての!!
「や、やだぁ!」
「本当だぁvこれ、ちゃんとちゃんの頭から生えてる〜!」
かわいいなぁ〜vと言いながら私の髪と耳とを触り比べてるあたりがなんか……ね。
ん?なんか聞こえる?
ぴくんと、耳が反応して音のする方へと向く。
その様子にまた歓声を上げるタカ丸はちょっと放置。
それよりも……私に聞こえてきたのは
(おい、どどどどどどどうなっているのだっ!?)
(私に聞くな!)
(そ、それにしても……)
(あ、ああ……)
(可愛い、な。)
(た、滝夜叉丸!お前そういう趣味があるのか!?)
(うるさーい!お前だってのこと好きではないか!)
(わっ!馬鹿!言うな!聞こえたらどうするんだ!!)
(ふん、私は聞こえたっていいぞ!私はが好きだからな!)
(くっ!)
(はぅ!まさか、私のためにはわざわざあの愛らしい耳としっぽをはやしたのか!!?)
(そんなことあるわけないだろ!あれは私のために頑張ったんだ!)
(なに!?田村三木エ門先ほど否定していたではないか!)
(そんなことはなぁい!!わ、私だってあの姿には……)
どえらい内容が聞こえてきた。
な、なに!?
三木エ門と滝夜叉丸は部屋の隅でひそひそ話をしているようだが、集中すると手に取るように会話が聞こえてしまった。
おそるべし、獣耳パワー。
私は聞こえてきた内容をとりあえず忘れることにして自分の耳力に感心していた。
だが、しかし……
(あ、あの姿で裸になったらすごいのだろうなぁv)
(あ、ああ……白い素肌に黒い耳としっぽ。最高のコントラストじゃないか)
(「私、滝にかまってほしいにゃv」とか言って・・・)
(「ねぇ、三木ぃ我慢できないにゃぁv」って上目づかいでおねだりされて)
(何度も突いたら背中に爪を立てられて「にぃゃあああんんvvv」てたくさん啼いてしまって……)
(舌はどうなってるんだろな……や、やっぱりざらざらしてるのか…)
(ぐふぅ!三木エ門まさかお前!?)
(「三木のことたくさん気持ち良くしたいにゃ」とかいって私のをっ!!)
(う、うらやましいぞ田村三木エ門!)
「ってこらぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
私は隠し持っていた苦無を本気で投げた。
こ、殺す!!!!!!
「な、何をするんだ!!?」
「そ、そうだ!私たちが何かしたか!!?」
「聞こえてんだよぉ!!なぁに妄想してる!!!!」
「「え!?」」
いっぺんに顔が赤くなる2人。
私の顔だって真っ赤だ!
「え〜?なになに?このお耳で聞こえちゃったのぉ?」
くいくいと未だ耳をもてあそぶタカ丸。
「二人ともなに話してたのぉ?猫耳でおねだりされたらたまらないなぁvとか?」
「た、タカ丸!!!」
「なぁにちゃん?」
「な、何そんなこと平気で言ってんの!!?」
「だって〜、それくらいちゃんかわいいんだもんv」
「ひぃあっ!!!?」
タカ丸の発言にしどろもどろしてたら突然おしりにすごい刺激が走った。
痛いって言うか、なんというか……
「やぁあん!」
第二波!
って、変な声出ちゃって恥ずかしい!
刺激をやり逃がしその原因である尻尾へと視線を向けると。
「だぁいせぇいこぉ〜」
尻尾を甘噛みしてる綾部がいた。
「やっぱり神経とおってるんだねぇ」
常と変らぬ無表情のまま、もうひと齧りと言って綾部は私のしっぽを口に含んだ。
「わわわ!だめっ!く、くすぐったいから!!」
「ふぁめ?」
「や、そのまましゃべんないで!!」
慌てて綾部の口から尻尾を引っ張り出して、もう触らせないとばかりにしっぽをしっかりと握って守る。
うう、こいつら危険だ!
危険すぎる!!
ばっと飛びのいて、4人から離れた所に逃げる。
「え〜、やだぁ、僕もっとちゃんとにゃんにゃんしたいよ〜」
「し、しませんから!にゃんにゃんってなんですか!?」
「え?言ってもいいの?」
「だめっ!!」
猫さながらにフーフーいいながら4人を睨みつける。
「・・・・な、なんで顔をそむけるのよ!」
(そ、そんな顔で睨まれてもっ!い、いい!)
「ちょと!滝!聞こえてるんだからね!!」
「わ、私は何も言っていないぞ!」
と、その時
「こぉら、誰だ〜、保健室で騒いでるのは」
がらり。
「あ、伊作せんぱーい」
ま、まじか。
保健室の天使こと伊作先輩の視線が私を凝視していた。
「な、な、な」
私の、平穏だった学園生活・・・・
自然と、耳がへちゃんと伏せちゃうのが分かる。
「ちゃん!君はなんて耳をしてるんだ!!」
「あ、あなたのこえをよくきくためです」
私のバカあああああああああああ!
続く
馬鹿なのは私です。
ええ、知ってます。
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