5/首に指の跡が付いていますよ
「あれ?ちゃん」
図書委員会の仕事で、書架の整理をしている時だった。
ふと、目に入った隣に立つちゃんの首筋。
上を見上げていた彼女の白い首筋に赤い痕。
五つ仲良く並んだ赤い痕。
思わず手を伸ばした。
赤黒くうっ血している。
「大丈夫、なんか、痕ついてるよ?」
「あっ!」
その痕に手がふれるか触れないかその刹那、ちゃんは身を引いて、首筋を自分の手でぱたりと隠してしまった。
ひどくあわてた様子。
「ううん!な、なんでもないから!」
「そ、そう?」
「うん!本当、何でもないの!」
「じゃあ、いいんだけど……」
「雷蔵!私、あっちの方整理してくるね!」
小走りで走っていくちゃんはまだ、首筋を押さえていた。
一体なんだろう。
あれ……
誰かにやられたのかな?
それとも、本当に何でもないのかな?
私は、いつもの癖で悩みだしてしまった。
ちゃんのことで悩めるのは嬉しいなと、思うくらいに彼女のことは好きだ。
赤い 痕
ひ
ふ
み
よ
いつ
両側に仲良く並んだその痕。
目を閉じたちゃん。
痛々しいその痕を隠してあげたくて。
隠して、あげたくて。
交差する黒い影。
赤い痕。
「あ」
目を覚ますと、じっとりと汗をかいていた。
首筋に髪が張り付いていて、不快感がする。
思わず、私は自分の手を見た。
いつもとなんら変わらない手。
詰めていた息を吐き出した。
「らい、ぞ?」
「あ、何でもないよ」
「そか?」
隣で眠っていた三郎が目をこすりながら声をかけてきたが、またすぐに眠りへと落ちていったようだった。
私は、もう一度床に伏す。
どうにも、昼間見たちゃんのことが忘れられず心が重苦しくなった。
どうしたんだろう……あの痕。
眠れぬまま、朝を迎えた。
幾度か、そういうことがあった。
しかし、ちゃんはどんなに聞いても、いつも慌てたように首を振って逃げて行ってしまう。
私はどうしていいのかわからない。
首筋のことに触れなければちゃんはいつも通りなんだ。
私は、どうしたらいいのか。
気になってしょうがない。
しょうがなくて、変な夢を見る。
私は、どうしたらいい。
「ら…い、ぞ……う」
「ちゃん」
赤い痕に指を這わせて、息を吸う。
ぐうっと、指に力を入れてみる。
息を、吐く。
そうだ、この痕が気になっていたんだ。
どうして?どうしてできた?
力が入る。
交差する親指。
静かな呼吸。
そっと閉じられた瞼。
目尻から滑っていく涙。
赤い唇。
「ちゃん」
彼女の慈愛に満ちた微笑み。
はたと、目が覚めた。
終
生霊
夢か幻か
どちらであっても
幸せなのかもしれない
|