4/ガタガタ五月蝿い無人の台所
最近、保健室を利用する生徒が非常に増えていた。
体調が悪いそうだ。
どうにも体調が悪く、保健室へ駈け込む。
日に、一人か二人。
まあ、季節の変わり目だし致し方がないことなのかもしれない。
それにしても、本当、運の悪い人たちだ。
「いただきま〜す」
大好きなじゃがいもの煮っ転がしを頬張りながら、友達とおしゃべりに花を咲かせる。
ああ、授業も終わったし、今日は何をして遊ぼうか?
「みんなで、それぞれの着物持ち寄っておしゃれに着飾ってみるっていうのはどう?」
「ああ、いい!それいいね!」
「そうだ、この前編入してきたタカ丸さんにお願いして、髪も結ってもらいましょうよ」
きゃいきゃい湧き立つ友達の話にふんふんと、相槌を打ちながら私は、ご飯でほっぺたをいっぱいにしていた。
だって、しょうがないじゃない。
おしゃれよりも、今は目の前のごはんがおいしいのよv
「じゃあ、は用具倉庫から首実験に使う首借りてきてね」
「え!?な、なんで?」
「だから、言ったじゃない!タカ丸さんに髪の結い方も教えてもらうのよ!」
「あ、ああ、それで生首ね!分かった〜、じゃあ、ご飯食べたら取りに行ってくるから」
「あ〜!もう、まだ食べるの?」
「だって〜!おいしいんだもん!!」
「しょうがないなぁ…じゃあ、私たち先に行ってるからね?」
「ん〜」
ひらひらと手を振ってみんなは先に席を立った。
最後のひとつ。
おいしいおいしいご飯を全部頂きました。
ごちそうさま、おいしかったです!
御飯のあともとても有意義に楽しかったv
タカ丸さんがいろいろ髪の手入れから、最近はやりの小物情報まで教えてくれてみんなで黄色い歓声をあげながら楽しむことができた。
私は、用具倉庫から借り出してきた首フィギアを返しに行く途中。
もうすっかり暗くなってしまった。
カタ
廊下の向こうから音が聞こえた。
ああ、誰かこっちに来るのかな?と、簡単に思ってそのまま歩いていたが、一向に姿が見えない。
ゴト
重い音。
なんだろう?
誰かなにかやってるのかな?
うっすらと、脳裏に「お化け」の単語が浮かんできてしまい、フィギアを持つ手に力が入ってしまう。
このまま、まっすぐ行けば食堂。
こんな時間じゃもう、おばちゃんも寝ているはずだし。
カタカタカタカタ
「だ、誰かいるの?」
食堂を覗き込んで恐る恐る声をかけた。
しかし、暗い中見渡しても、誰もいない。
カウンターから身を乗り出して、中を覗き込んでも誰もいない。
おかしいな。気のせいだった?
首をひねりながら、私は用具倉庫に首フィギアを戻しに走って行った。
フィギアを棚に戻し、倉庫から出た瞬間。
不意に不快感に苛まれた。
「おな、か…痛い?」
それに、気持ち悪くなってきた。
あ、やばい。
なんだろうこれ。
急に具合悪くなった。
慌てて、まだ動けるうちに保健室を目指す。
これは、今までに類を見ない体調不良っぷりだ。
今日のごはん食べすぎたのかも!!
一歩踏み出すごとに、じんじんと体がいうことをきかなくなってくる。
ようやく、保健室の扉をたたいた時には、顔から汗が滴り落ちてきていた。
「はい」
「す…み、ませ……ん」
蚊の鳴くような声で、戸をあけて中に入った。
行灯の明かりで本を片手に座っていたのは、伊作先輩だった。
「ぐあ…い、悪くて」
「ちゃん!?大丈夫?顔が真っ青だよ?」
「は、い」
もう、こらえきれずにぱたりと床に倒れてしまった私の体。
浅く息を繰り返して、体の自由がきかない。
慌てて駆け寄ってきた伊作先輩。
あ、よかった。これで…
カタリ
あれ?
先輩は私を通り過ぎて、戸を閉めた。
軽い鼻歌が聞こえて、私の両脇をつかんで、伊作先輩が部屋の奥へと私の体を引きずる。
「せ…ぱ……」
「よかったよ〜、いつ来るか待ってたんだ」
「……ぁ」
「ちゃん結構食べるほうなのに、なかなか当たらなくって心配しちゃった」
ね?と、優しい笑顔を向けられるけど、何の事だかわからない。
伊作先輩に膝枕されて、先輩の両手が私の頭をなでる。
そうしている間にも、手足の先は痺れてもう動けなくなったというのに。
苦しいと、視線で訴えてみるが、伊作先輩はニコニコ微笑むだけで。
「今日だってさ、ちゃんおいしそうにじゃがいもの煮っ転がし食べてたでしょ?」
「…ぅ」
「あれにも結構仕込んでおいたはずなのに、こんな時間まで来ないしさ」
「ぁ」
「でもよかった〜、心配したんだ」
あ、そうそう、これね?と、唇に何か一二滴垂らされる。
痺れる感覚が一層つよ………ま…
不安そうに、瞳をきょろきょろさせているちゃん。
可愛い可愛いちゃん。
もう苦しくはないはずだ。
袖で、ちゃんの額に浮いた汗をぬぐってあげる。
ああ、かわいい。
「ねえ、これから何をしよっか?」
「ちゃんの好きなこと何でもしてあげるよ?」
「ようやく二人きりになれたんだから」
「ね?」
突然、ちゃんの瞳がぐうっと大きく見開かれた。
私の後ろを見ている。
大きく大きく見開かれた目。
なにを見てるの?
ふうっと、行灯の火が消えた。
終
ありきたり?
もったいないおばけ?
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