3/天井に知らない人がいるよ











普段通りの生活。
普段通りのリズム。
普段通りの、音。




丑の刻。
三つ時。




必ず天井から音がする。
かたり、ことり。
鼠とは違う、大きなものが動く気配。
これでも、忍者の端くれの私ですので、それくらいの気配は分かります。
はじめは誰かがいるのかと思い、声をかけた。
だあれ?と。
返事はもちろんない。
代わりに考えたのは、このくのたま長屋に忍たまが誰かを夜這いに忍び込んだのではと考えた。
だから、無粋なことはしない方がいいとも思ったのですが、どうも気配は常に私の体の上にある。
丁度、私があおむけに寝転んでいるのと同じように、そこにいる人も同じように私の真上で同じように体を置いているような気がする。
そして、明け方になり、空が白んでくるまでそれはそこにいるのだ。
気味が悪いのだが、別段悪いことをしてくるわけでもない。
だから、放っておいた。
母に似て、そういうところは図太いのだ。
でも、時折不気味に天井から音がする。
かたり、ことりと。
























そんなある日。
私は恋仲である滝夜叉丸と肩を並べて日が暮れていくのを見ていた。
彼曰く、そんな二人はとてもロマンチックだそうだ。
私は、夕日をうっとりと見つめ、バラを手にした彼自身がロマンチックなのだと思います。


「滝、好き」


精一杯のかわいらしさをこめて、愛の囁き。
照れて、そっぽを向くけれど、


「わ、私も、が好きだぞ」


そう言ってくれる彼が好きです。
そして、不器用ながらも、私の肩を抱き寄せてくれる滝夜叉丸。
ああ、幸せです。
滝夜叉丸は私の耳にそっと囁きました。


「今夜、の部屋に行っていいか?」
「うん、いいよ」


二つ返事ですぐに返してしまうのは仕方がありません。
私は、こんなにも滝夜叉丸が好きなのですから。
抱擁と、めまいがするほどの口付けは図書室で読んだ本にも出てくるようにロマンチックでした。












その夜、滝夜叉丸は部屋に入るなり私を押し倒してきます。





まるで、熱病にでもかかったうわごとのように私の名前を囁いています。
今まで十分我慢してきたのでしょう。
そんなかわいい彼が、堪らなく感じ、すぐに布団へと導いて、二人とも生まれたままの姿になっていきました。
愛撫も、前戯も飽きるほどやり、お互いの濡れそぼった性器を重ね合わせます。


、いいか?」
「うん、滝にならいいよ。私の、はじめてあげる」
!!」


私の言葉をきっかけに興奮した滝夜叉丸は、じゅぷじゅぷといやらしい水音をたてて私の中へと入ってくる。


「いっ、た」
「くぅ、!」


我慢できないくせに、優しくゆっくりと入ってきてくれる滝により一層の愛おしさを感じて、自ら腰を押しつけて奥へ奥へと彼の肉棒を受け入れていくと、だんだんと痛みではなく、快感を感じるようになってきた。


「は、ぁん!滝、きもちっ、いい」
「私も、の中が気持ちい、い」


ぐちゅぐちゅぱんぱんと音を立てながら二人の密事が広がっていきます。
はあはあと息が荒いのは、私も滝も同じでした。
正常位で交わっていた私は、その時ふと気付きました。
丁度、私の顔の上。

丁度、私の目の上。

まっすぐ上。

ふたっつの穴があいている。

よくよく眼を凝らすと、穴から、二つの、目が、私を見ていた。


「ひっ!!?」


人の目が、じぃっと瞬きもすることなく私を見ていた。
恐怖で、ぐうっと身をこわばらせ、意識を遠のかせた。
身を固くしたせいで、逝ってしまった滝の精液を体内に感じて、私は意識を手放した。





















目が覚めると、後処理が終わり、私は一人で部屋に寝ていた。
きっと、気恥かしくなって滝はいなくなったんだろう。
それよりも。

痛む腰を押さえて天井を見上げた。

やはり二つ穴があいている。
だけど、誰ももういない。
誰もそこからはのぞいていない。


部屋にいたくない。


また誰かがのぞいていたらどうしようと思い、部屋を後にした。
廊下に出るとまだ夜の端が空に残り、夜明けは遠そうだった。


「滝のとこ、いこ」


いとしい人のぬくもりを求めて、えっちらおっちら廊下を進んでいきました。
すると、忍たま長屋の長い廊下を歩き始めたときでした。
庭で土を掘り返す音。


ざく、ざく、ざく。


気になってそちらを見てみると、見慣れた忍び装束。
そして、見慣れた後ろ姿。


「あ、綾部」


仲良しの綾部がそこにいました。
例の如く、一人用の塹壕を掘っていました。
一心不乱に掘り続ける綾部に素足なのも気にせずに駆け寄ります。
その背中に手を置いた時にようやく綾部は私に気づいたようです。





後ろを向いたまま、綾部は私の名を呼びました。


「なんで、裏切ったの?」
「え?」
「ねえ、なんで?」
「綾部?私、綾部と何か約束してたっけ?」
「なんで、なんで」
「わ、分からないよ、ちゃんと話してよ、綾部」


よく唐突に話し始めたり、会話が飛んだりするけれど、ここまで綾部の話が分からないのは初めてで、どうしようかと戸惑ってしまった。


「ああ、そうか」
「あ、綾部?」
「そうかそうかそうかそうか」
「綾部、どしたの、」
「そうかそうかそうかそうか、は準備してくれたんだ」
「え?」
「そうだったのか、私が一番初めじゃうまくできるかわからなかったんだ」
「な、なにいって」
「乱れた自分を見せて予行練習していたのか。おやまあ、のかわいい姿を見るのは私だけでいいと思っていたけど、私のために我慢して滝夜叉丸と交わっていたのか」
「え?」
「ふふふ、、大丈夫だよ。すぐに二人で始めればきっと嫌なことも忘れられる。さあ、そうしたらこうしてはいられない。はやく、早く行こう」
「綾部?」


くるりと、振り向いた綾部の目の周りにうっすらと、丸く跡がついていた。
震える私の体を、抱きしめて、綾部は耳元で囁いた。


のこと、これからもずっとそばで愛してあげるからね」























































本当は、もっとギャグにしようと思ったのに、綾部恐るべし。
そして、滝…