2/あれ、あの人私と同じ顔・・・?












「あれ?」



違和感を感じたのは、池の中を覗き込んだ時からだった。
池の中にとても大きな鯉がいると聞いて、一人で見に行った。
池のふちに手を置いて、膝をつき、そっと覗きこむ。
水が濁っているようで、そこまで見えない。
きらりきらりと光って見える水面に映っているのは私の顔だけだった。
なんだ、つまらないと思って立ち上がろうとしたとき。


にた


水面の私の顔が歪む。
口の端をくうっと吊り上げてほほ笑んだ。
な、に?


「え?」


けたけたと赤い口を見せて笑う私。
恐ろしくなって、後ろに尻もちをついてしまった。
周りを確かめる。
誰もいない。
恐る恐る水面を覗き込んだが、不安そうにこちらを見返す私が映っているだけだった。


「き、気のせいよね?」


最後ににっこりと微笑んでそこを後にした。
ああ、その時からだった。






























食堂でご飯を食べている時、図書室で本を探している時、厠から出ようとしたとき。
実習訓練中や、授業中に外を見た瞬間。
ちらりと、視界の端に誰かの人影。
私と、同じ顔の人影。
だれ?
いつも、その赤い口が耳元まで裂けているように見えるのは目の錯覚だろうか。
私と同じ顔なのは気のせいだろうか。
怖い。
友達に相談しても、笑い飛ばされるだけ。
だって、誰もその人影を見たことないから。
私だけが、その影におびえてる。
先生に相談するわけにもいかず、眠れない夜が続いた。
目元にもすっかり隈ができてしまったその日、突然背を叩かれた。



私は影におびえて、よく一人で壁に向かって立っていることが多かったから、後ろに誰かいるだなんて思いもしなかった。







名前を呼ばれて、振り向く。
そこには、私の顔があった。
にたりと、やはりその顔は笑うのだ。
私は、眼を見開いて、その顔を凝視する。
やっぱり私、と同じ顔。
その私の口がにたりと、つり上がり、言葉を発した。





私と同じ声。
まったく同じ声。
同じすぎて、どうしようもないくらいに同じ声。
恐怖した。


「私、鉢屋三郎を愛しています」


その声がしゃべる。


「5年生の三郎を愛しています」


しゃべる。


「愛おしくて、彼のことを考えると夜も眠れません」


しゃべ


「彼のことを考えて、体が熱くなります」


しゃ


「はしたない私、は三郎が欲しくてたまりません」





「三郎が好きすぎて狂っているのかもしれない」


目の前の私の手が、目の前の私の胸をつかむ。
やわやわと、己で己の胸を揉んでいる。
はしたなく手がうごめいている。



「私は、」
「私は、三郎が好き」
「わたし」
「三郎が好きすぎて、苦しい」
「さぶろう」
「三郎が欲しいから、好きだから」
「さぶろう」
は三郎が欲しい」
「わたし」



胸を揉んでいた一方の手が、いやらしくも指を下へ下へと伸ばしていく。
いつの間にか、息が上がっているのは私の方だった。


「三郎が欲しい」


その言葉を、繰り返した。
指が股の間に到達したのは、私の方だった。
にたりと、目の前の私が笑う。


、三郎が欲しい?」
「ほし、い」


うごめくゆび。
止まらない渇望。
目の前の私の声が男の声になっていた。
そして、にたりとまた笑う。


「欲しい?」
「さぶ、ろぉ、が」


胸を揉んでいた片手が、取られる。
そして、そのまま導かれたのは目の前の私の股。


「すき」


手に触れたのは、私にない、熱い猛り。
硬く反りかえった陰茎。


「あ」


ぞくっと、背筋に走る甘いしびれ。
欲しい。
欲しい。
欲しい。


、私も欲しい」


つるりと、顔をなでると、目の前の私が消える。
代わりに現れたのは意地わるい男の顔。


「さぶ、ろう?」
「私が好きなんだろう?」


無言のままうなづくと、私の視界は三郎で埋め尽くされた。
広がるもどかしい刺激に、身震いした。


、ほしい」











































狂った男が、意中の女を射止める方法。
やはり狂った方法だった。