与える事




























職業病とでもいおうか、損得勘定の関係をいつでも上辺に張り付けた表情の下で考え続けてきた。
それは、最早「病」と言ってもおかしくないほどに誰もかれも信じられないくらいにおかしいくらいにすさんだせいかつだった。
考えだった。
かんじょうだった。
例えば、誰かに裏切られたこともあった。それは、ほんの一時でも思いを寄せた相手だったり、そうでもなかったり。まあ、本当に色々あったんだなぁと、しみじみ頷いてしまうほどの日々だった。だから、私はどうしようもない奴になり果てていた。
それはもう、笑ってしまうくらいに。
部下は、恐怖と命令で従っているだけだったろう。
私は、それでもそんな関係せいでいいと思えるくらいに、うんざりしていた。
「人」ってものの繋がりに。


「雑渡さん、聞いてます?」
「え?ああ、聞いてるとも」



そうそう、君の話を聞かないわけないじゃないか。
わざわざ君に会いにここまで仕事を抜けてきていると言っても過言じゃないのに。


「嘘ばっかり。……じゃあ、私が今言ったこと言ってみて?」


疑り深い君の詮索すら、私にとっては嬉しさに直結するもので、こんな感情はきっと久しく感じていなかった。
私が、こうして損得も何も考えずに人と接することが出来るようになったきっかけは、皮肉にも人目に自分の姿を曝け出すのを憚れるほどの怪我を負った時だった。


「棒手裏剣の投げ方のコツはなんですか?というか、私の話聞いてませんよね?おーい、雑渡さぁーん……私、行っちゃいますよ…いいんで」
「わあああああああ!!!」


慌てて、ちゃんは私の口を押さえてきた。
それでも口を動かすと、くすぐったそうにしながらも顔を真っ赤にさせて眉根を寄せたちゃんが小さく「わかりましたから」と呟いた。
年柄にもなく、つきりと胸が痛んだ。
甘い疼痛感。
掴んだ手首は細く、それでも無自覚にも女であると主張してくる。


「分かりましたから!雑渡さんが私の話を最初から最後まで聞いてくれていたのは分かりましたから!」
「そんなに恥ずかしいかい?私のことが好きすぎて?」
「あっ……や、い、言わないでよ……」


素の彼女が見え隠れする言葉遣いは、私への心の許しと繋がる印。
損も得も何も考えずに、ただ感情のままの関係は、なんて難しくて楽しくて、心地よいのだろう。
「組頭」、そんな上面をおいてけぼりにして、ちゃんはぶつかって来る。


「雑渡さんなんて、嫌いです」


拗ねて見せるのは、女の媚びなんて含んでない、そのままのちゃんの感情。
それが、嬉しくて自分の中で、また一つ彼女へと気持ちが膨れる。


「私は、好きだよ?」


さらりと、ちゃんの真似をして自分の感情をそのまま伝えてみれば、嬉しいくせに恥ずかしいのか顔をそらされてしまった。
くつくつと、喉の奥で笑いながら、そんなあるがままのやり取りを楽しんだ。


「それじゃあ、コツを教えてあげようかな?」
「……本当ですか?」
「ああ、いいとも」


ようやく、こちらを向いたちゃんの瞳にはただ喜びの色が宿るだけ。
細めた目でにこりと笑いかける。


「それじゃあ、教えてあげるからちゅうしてくれるかい?」
「ばか」


そう言いながらも口元を覆った頭巾をずらして、傷の残る私の唇に自分から口付けを落してくれるもんだから、私は一層ちゃんにたまらなくなっていく。
積み重ねた感情が、どこまでも昇っていってしまう。
それこそ、ありのままの私が、彼女の前にいた。


「大好きだよ、ちゃん」


花ほころぶ彼女に、今度は私から口付けを。





















(君がお望みなら世界すら捧げてあげる)