アガベ(愛他的な恋愛)
なんて、罪深い。
私のこの両手は罪の色で真っ黒。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
私は、罪深い娘なのです。
だからせめて、この両手を合わせて祈ります……
「ああ、どうか、消えてなくなれ……」
目をギュッと閉じて祈るのです。
「消えてなくなれ……目を開けたら、目の前というか、この世から全部消えて……」
ちらりと、薄目を開けてみても、まだそれは消えてない。
私は、大きくため息をついて、うなだれた。
そう、どうあがいても目の前に置かれている現状は変わることはないのだ。
視線を机の上に落とす。
ああ、どうして今日という日に、こいつが皿の中にいるの?
ねえ、仏様、慈悲ぐらい気前良く分け与えてよ。
何度目かのため息になるか分からない、ため息をついた。
「あれ〜?ちゃんどうしたの?」
そのとき、通りかかった伊作先輩は、如来様か、天使様かと思った。
心なしか、いつも以上に輝いて見える先輩。
「い、伊作せんぱーい」
祈りが通じた!
仏様!ありがとう!あなたの気前の良さには一生感謝するかもしれません!
キラキラしている先輩に、助けを求めて手をのばすと、心優しい先輩はその意味を理解してこちらに来てくれた。
笑顔を絶やさずに私の向かい側に座ってくれた先輩は、仏様です!
「どうしたんだい?まだご飯中でしょ?」
先輩は、私の前に置かれたA定食に視線を注いで心配そうに言ってくれた。
違うんです、体調的にはばっちり何ですが……
「あ、あのですね……先輩にお願いしたいことがあるんです」
「な、なんだい?」
あまりの必死にさにちょっと目をそらす先輩。
あう、ごめんなさい、おびえないで。
「あ、あのですね、先輩……先輩にしかお願いできないんです!」
「う、うん」
ぐっと机に身を乗り出して先輩の耳元に唇を寄せた。
食堂のおばちゃんに聞かれたら絶対にやばい!
「わっ、な、ちゃん?」
「先輩……私の代わりにしそ、食べて下さい」
私は、元の位置に座ると、先輩にそっとお皿に残されていた「しそ」の山を差し出した。
今日はなんて運が悪いのかしら、まさかしそがこんなに隠れてるなんて!
なんか、心なしか耳が赤くなってる気がする先輩がぽかんとした表情を浮かべていた。
しょうがない、白状すればいいんでしょ?
「駄目なんです……しそだけは。これ、ただの草って言うか葉っぱって言うか、なぜか体全体が拒否しているんですよ。しかも、これがある必要性ってのが私にはさっぱりで……」
だから、食べて下さい!
と、私は箸まで差し出した。
失礼かと思ったけど、これ、おばちゃんにお箸もらいに行ったら、嫌いなのもろばれしちゃうし。
そうしたら、私のごはんには延々としそが組み込まれるメニューになる。
それだけは絶対嫌だ!
土井先生がねりもの駄目なのと同じように私もしそだけは嫌なの!
「ね、先輩。お願い?」
「……ちゃん」
私の手から先輩はお箸を受け取ってくれた!
やった!これで食べずに済む!
にっこりと、極上の笑顔を浮かべた先輩。
「先輩!ありがとうございます!」
「あのね、しそって、とっても体にいいんだよ?」
「え?」
嫌な予感が。
先輩は笑顔のまま、お箸で山になってるしそをとる。
「はい、私が食べさせてあげるから、がんばって食べて?」
目の前に差し出される緑色のしそ。
その向こう側には、伊作先輩のきれいな笑顔。
頬を、冷たいものが流れた。
「せん、ぱい?」
「嫌いでも、食べてみたらおいしいかもよ?」
「い、いえ、おいしくないです」
「でも、がんばって食べないと」
「いえいえいえいえ、本当無理なんです」
「じゃあ、ちゃんと食べれたら私がちゃんの言うこと一つ聞いてあげるから」
「いや、それなくていいので、先に一つ言うことを聞いて下さい」
「なんだい?」
「そのしそをたべてく」
「だーめ」
淡々とした攻防戦が繰り広げられる。
まさか、仏の使いかと思っていた先輩が魔性の者だったなんて!
「それじゃあ、食べないと、私がに好きなことをしちゃうよ?」
「え」
「だから、ちゃん」
笑顔がまぶしすぎて、ちょっと目の前のしそがかすんで見えた。
「はい、あーんして?」
終
アガペーで調べて、それにのっとってみた。
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