ルダス(遊び感覚の恋愛)













気軽な関係。
私たちの関係。


「留〜、今度の休み一緒に町にいこー?」
「ん?ああ、いいぞ」
「やった〜!」
、自分から誘っておいて、忘れなんなよ!」
「わかてるってば」


ひらひらと手を振って、すぐに立ち去る。
顔を合わせるのはほんのわずか。
会いたいときに、会って。
丁度いい関係。


「ねえ、って食満君と付き合ってるの?」
「え?留と?」
「うん!」


期待に満ちた瞳で友達に聞かれても、笑って済ませてしまう。


「そんなことないよ」


本当に何でもないとしか感じてないと分かると、みんな興味を失って次の話へ。
しばらく、笑いが止まらない。
私と留が付き合ってるなんて。
そんなことあるわけないのにね。
今日も、いつもと同じように笑って答えた。
ただ、少し違ったのは、見知らぬ子が混じっていたこと。
だけど、気にせずに答えてしまった。


「ん?なあに?」
先輩、本当に食満先輩のこと好きじゃないんですよね?」
「だから、そうだって言ってるじゃん」


アハハと、笑いながら言うけど、その子の瞳が私を突き刺していた。
あー、敵意むき出しだね。
しかも、後輩かぁ。
ケンかとか、そういうの嫌いなのよね。


「あ、私ちょっと用事思い出したから、行くね」


こういう時は、面倒なことに発展する前に退散と決め込む。
足取り軽く、その場を後にした。
あー、あーゆー系のかわいい女の子にも留もてるんだぁ……
もっと「清楚!」って感じの子に好かれるのかな?って思ってたけど、ふーん。

















その場を後にした足で、そのまま図書室に入り込む。
誰もしゃべらない。
今日の係りは雷蔵君。
手を振ってあいさつすると、律儀に頭を下げてくれる。
ああ、本当いい子だなぁってほのぼのしてしまう。
適当に面白そうな本を手にとって、そのまま読む気もないのにページをめくった。
さらりさらりと、ページをめくる音。
さっきの子の顔がちらちら浮かんできてしまう。
留のどこが好きなんだろうとか、留との接点はあるのかな?とか。
告白なんてされたら、留、どんな顔して慌てるんだろう。
絶対真っ赤になって「あ、おおおおおおおおお俺はだなぁ」とかってなるんだろうなぁ。
くふふと、笑いをかみ殺した。


「あっ」


バン


「い、た」


鈍い痛み。
雷蔵君が「先輩大丈夫ですか?」と、小声で言っているのが聞こえる。
頭を押さえて、後ろを振り向くと留がいた。


「なにすんのよ」
が気持ち悪い顔で笑ってるからよ」


してやったりと、満足気な笑顔を浮かべて留は私の隣に腰をおろした。
そして、私の頭を叩いた本を開いて、さっきまでの私と同じようにページをめくる。
さらりさらりと、ページをめくる音。
むかついたので、肘鉄を一発くらわせて、何食わぬ顔で私も本に目を落とした。


「いってーな。のばーか」
「うるさい、先にやったのはそっちでしょ」
「……何笑ってたんだよ?」
「ん?気になる?」


こそこそ他の人の迷惑にならないように言葉を交わす。
秘密のやり取りみたいで、面白くなってきてしまう。


「気になる。教えろよ」
「いいよ、あのね」


ここぞとばかりに留の耳元に口を寄せてそっと呟いた。


「告白されちゃったの」


自分でも、上出来の冗談だと思う。
体が硬直した留の頭を私の本で軽く叩くと、そのまま図書室を後にした。
雷蔵君が、しょうがないなぁと、私の本を受け取ってくれるのは計算済みだった。
甘やかしてくれるから、雷蔵君大好き!
廊下を歩きながら笑ってしまった。
留驚いて、追いかけてきてくれるかな。
そしたら、ちゃんと嘘だって言わなきゃ。
それで、本当は留が幸せものなんだよって教えてやらないと!
不運委員のせいで、運が落ちてる留へのせめてもの贈り物だ!



















私の予想に反して、留は追いかけてきてくれなかった。
いつもなら来てくれるのになぁ。
後日、町に行く時のことを話そうと思って留を捜したけど、見つからなかった。
逆に、私が例のあのこに見つかってしまった。


先輩」
「あ……なあに?」


なんか、やりにくいんだよねこの子。
敵意が見え見えでさ。


「先輩、私の邪魔しないで下さいね?」
「え?」
「それじゃあ」


意味ありげな言葉を一方的に押し付けて彼女は去って行ってしまった。
邪魔かぁ。
邪魔になってるんだよね、やっぱり。
うーん。
それでも、約束しちゃったから、留と町には行こうと思って手紙を書いた。



町に行く時のこと
決めたい
お返事待ってます


めんどくさいから、必要事項だけかいて、伊作に押し付けた。
不運だけど、手紙渡すくらいは簡単でしょ!


























残念ながら待ちぼうけ。
伊作に詰め寄って、ちゃんと渡したのか聞いたけど、渡して留が分かったって言ってたらしいから、来るとは思うんだよね。
いつもの場所で待っていると、横を同学年の仙蔵とか、七松とかが通り過ぎる。
みんなに留のことを聞いても、意味ありげな笑いを浮かべてどこかにいってしまう。
もしかして、あのことよろしくやってるのかな?
それでも、私に一言あってもいいんじゃないの。


「留のばーか」


暮れていく一方の夕焼けを見ていた。

























結局辺りが暗くなるまで待ってみたけれど、留は来なかった。
とぼとぼと自室に帰った。
食事もとらずに、とっとと床を敷いてしまった。
もやもやが広がっていく。
喧嘩することもあるけど、こんな風になることなんてなかった。
それに、今回は喧嘩らしい喧嘩はないし。


「あ〜!もう!本当なんなのよ!!留の大ばかもの!」


潮江の真似をしてばったりと、あおむけに倒れ込んだ。


「ぎゃああああ!!」


涙が滲んだ目に飛び込んできたのは、留だった。
天井から、こっちを見下ろす留の生首!
急なことにびっくりして、思わず叫んでしまった。


、そ、その、そっちいってもいいか?」
「と、留!なにやってんの!?い、いいから早く降りてきてよ!」


し、心臓に悪すぎる登場だよ、食満留三郎。
ばくばく騒ぐ心臓を押さえて、留が降りてきたのを見た。
なんなんだよこいつ。


「その、……」
「なに?謝りに来たの?」
「あ」
「そうだよね〜。いくら、あの子とうまくいったからって私のことを避けて約束断るにしても放置とか、ないよね〜」
「は?え?」
「私と会うなとかさ、言われたんでしょ?もう会えなくてもいいけどさっ、約束守らないやつなんて最低だよ!」


言いながら、自分がヒートアップしていくのが分かった。
頭に血が上っていく。


「留のバカ!私、ずっと待ってたんだからね!!!」


きーんと耳鳴りがした。
全部、全部留が悪い!!!!!
わけも分からず、涙がこぼれてしまった。


!!」
「や、やだ!触らないで!!」


突然留に抱きしめられた。
暴れて、その腕から逃げ出そうとするが、逃げ出せない。
ぞっと、体がこわばる。
始めて、体格の違いを思い知らされた。


、落ち着けって!」
「ひっ」


興奮状態からパニックに陥っていく私。
留は、力強くも壊さないようにと私を抱きとめてくれていた。
ようやく、落ち着いてくると、ぎゅうっと押しつけられた留の体に安心した。
あったかい。
顔は見えないけど、留がここにいる。


、ごめんな」
「わ、私こそ……暴れて」
「本当、ごめん」


謝るたびに優しく力が込められる留の両腕。


「それで、なんで来なかったの」
「……の様子が変で、そうしたらお前、告白されたって言うから」
「冗談だったのに」
「ほ、本気に見えたんだよ!……それで、焦って」
「焦った?」
「そ、それでよ…どうしていいのかわかんなくて、お前に会いに行けなった」


、好きだ」


留の体が震えてた。















































遊びだとばかり思っていた関係が崩れる。